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  • Toshi Akashi

Issue 135 - Purpose and 2030 Vision


ステークホルダー資本主義の高まりの中で、企業にはますます「稼いだ利益をどのように社会に還元すべきか」が問われるようになってきています。今回のSeattle Watchでは、テクノロジーから少し離れて企業の長期的視野や存在意義の重要性に立ち返って考察してみたいと思います。


 

皆さんも耳にされたことがあると思いますが、英語には10年を表すディケード(decade)という単語があり、何十年(decades)という表現も良く使われます。そして2021年は新しいディケードの最初の年ということもあり、様々な企業や業界団体が10年後の未来を予測した「2030年ビジョン」というレポートやビデオを公開しています。(下記参照)

このような長期的な視野は企業にとってますます重要になってきています。一般的に企業の理念や目指す方向性は、 ミッションステーメント(mission statement)やビジョンステートメント(vison statement)などで表されますが、この2つはとても似ているように見えるかもしれませんが、厳密には大きな違いがあります。ミッションステートメントは、各企業の存在意義、そして誰が何をなぜ行うのかということを明確にするのに対して、ビジョンステートメントは、企業活動の結果としてどのような世界を実現したいのかという方向性に焦点が当てられます。例えば、セールスフォースが掲げるビジョンステートメントは、「あらゆる人のために、サステナブルな未来の実現を目指す(We’re committed to a sustainable future for all.)」となり、マイクロソフトの創業時のビジョンステートメントは、「各家庭や各デスクにコンピューターがある世界(A computer on every desk and in every home.)」となってます。

これに対してミッションステートメントは、その存在意義を説明する際にアクションをベースにした表現が多く用いられる傾向があり、航空会社のジェットブルーでは「空と陸の両方で人間性を鼓舞する(To inspire humanity – both in the air and on the ground.)」となり、家具販売のイケアでは、「より快適な毎日を、より多くの方々に(To create a better everyday life for the many people.)」となってます。 https://blog.hubspot.com/marketing/inspiring-company-mission-statements

また新型コロナの影響による不安な事象は、企業に自分達の存在意義(パーパス)をあらためて再認識するという機運を与えているようです。私が最近目にした「パーパス」について語っているメッセージをご紹介したいと思います。社会情報大学院大学の客員教授である伊吹英子さんは、パーパスとは「企業の社会的存在意義を規定するものだけではなく、「ぶれない強み・軸」を持っていることを意味する。」と話されています。さらにパーパスは「企業のみならず、社会のあらゆるステークホルダーと共感・共鳴できる共通言語の機能を果たす。」と続けられています。https://www.projectdesign.jp/202103/relation-of-new-business/009081.php

我々が昨年制作した「セールス・テクノロジー(Sales Tech)」のレポートでは、リーダーシップのエキスパート、サイモン・シネック氏の「ゴールデンサークル」という理論を紹介しました。少し古い理論ですが、同氏は人々の購買意欲は「“何を(what)”ではなく、“なぜ(why)”に動かされる」と主張し、ビジネスを成功させ、それを傑出したものとするには、“なぜ(why)”を具体的に示し、それが利益のためだけではないことを明確にする必要があると指摘しています。https://koicpa.com/management/golden-circle/

私もこのレポートの制作を通じて、企業が利益を上げることは目的(パーパス)ではなく手段(メソッド)に過ぎないということを再認識しました。企業社会の中では利益や生産効率が成果物として重要視されますが、それは決して最終目標ではなく、その利益を社会にどう還元するのか?どんな社会の実現に貢献できるのか?ということであるべきです。そして、これらのミッションステートメントやビジョンステートメントの作成についても同様に言えることで、そのメッセージやビデオを作成して満足してしまっているだけでは不十分で、実際の行動(アクション)に変えていくことがより強く求められる時代に入っていると思います。

新型コロナの影響で我々の職場環境は大きな変化を遂げ、これからもニューノーマルと呼ばれる新しい環境で仕事を続けることになるでしょう。10年先どころか来年もどうなるか分からないというのが正直な気持ちかもしれませんが、「災い転じて福となす(Good comes out of evil)」という諺もあるように、新型コロナの影響で見えてきた新しい可能性もあるはずです。我々のサービスも本来ならシアトルで実感して頂くのが効果的ですが、リモートでのセミナーやトレーニングというこれまで議題に上がりながらも実現しにくかったメソッドが確立されつつあります。これからも皆さまのビジネスの伴走者として役に立つというミッションをブレずに追及していきたいと思っています。



 

<2030年ビジョンを掲げる企業> Intel (https://www.intel.com/content/www/us/en/homepage.html) Intelは、「さまざまな形で世界を変革しようとするテクノロジーを生み出すことによって、地球上のあらゆる人々の生活を豊かにする」というミッションステートメントのもと、2030年に向けた新しいビジョンであるRISE戦略を掲げている。この戦略は、Responsible(責任感)、Inclusive(包括的)、Sustainable(持続成長性)、Enabled(可能)という4つの要素から構成されており、気候変動、情報格差の深刻化、不十分な一体性、世界規模のパンデミックなど世界が抱えている多様な課題を、テクノロジーの力で解決していくことをより明確にしている。

Dell Technologies (http://delltechnologies.com/) Dell Technologiesは、「人類の進歩を促進するテクノロジーの創造」というミッションステートメントのもと、新たな10年に向けた「2030 Progress Made Real」計画の中で、「サステナビリティを推進する」、「多様性を受け入れる」、「人々の生活に変革をもたらす」、「倫理とプライバシーの維持」という4つのソーシャルインパクト目標を掲げている。それぞれの分野でムーンショット目標が設定されており、CEOのMichael Dell氏は、この大胆な目標は将来に対する明るい展望であり、「目標達成のための答えがすべてわかっていなくても、それは悪いことではない。ビジョンを根底から支えるのは、自分がどのような世界で生活したいかという考えである。」と述べている。

Apple (http://www.apple.com/) Appleについては、前述のリーダーシップのエキスパート、サイモン・シネック氏が自らのゴールデンサークル理論に当てはめ、「我々(Apple)のすることは全て、世界を変えるという信念で行っており、異なる考え方に価値があると信じている(Why)。私たちが世界を変える手段は、美しくデザインされ、簡単に使え、親しみやすい製品である(How)。その結果、素晴らしいコンピュータが出来上がりました。一ついかがですか(What)?」と顧客に訴えかけているという分析を発表している。同社は、今年の6月の開発者会議(WWDC 2021)で今後の10年にわたる戦略を示唆しており、そこではハードウェアの発表ではなく、次に来るテクノロジーの種を忍ばせるという形で、新しいOS群、リモート時代に適したコミュケーションの変革、プライバシーの推進、また各デバイスのシームレスな融合などを発表している。 IKEA (https://www.ikea.com/) IKEAでは「より快適な毎日を、より多くの方々に(Create a better everyday life for the many people)」をミッションに掲げ、優れたデザインと機能性を兼ね備えた家具を提供している。同社は、2030年に向けたサステナビリティ戦略として、「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ」という野心的な目標を掲げており、気候変動、持続不可能な消費、不平等という重要課題に対して、健康的でサステナブルな暮らし、サーキュラー&クライメートポジティブ(循環型で気候変動に対応)、公平性とインクルージョンという3つの達成目標を設定している。

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