top of page
Hideya Tanaka

SW 203 - MWC Barcelona 2024 and SXSW 2024

今回のSeattle Watchでは、2月末から3月上旬にかけて開催されたMWC(Mobile World Congress)とSXSW(South by Southwest)という2つの展示会で取り上げられた業界のトレンドや将来予測について紹介していきたいと思います。


 

MWC(Mobile World Congress)は、毎年スペインのバルセロナで開催される世界最大級のモバイル技術の展示会で、2月26日から2月29日まで開催されました。今年のMWCには、205の国と地域から2,700社以上の出展企業やパートナー企業が集まり、10万人以上の参加者が訪れています。


今年のMWCでは、昨年に続いて5Gが主要なテーマとして取り上げられましたが、「AI」と「Always-on Connectivity」というテーマにも焦点が当てられていました。AI領域では、ソフトバンクがNvidia、Microsoft、Armなどの大手テック企業や大学などと共同で、AI-RAN Allianceと呼ばれる業界団体の設立を発表しました。同団体は、AIとモバイルネットワークを組み合わせたAI-RANの活用と高性能化を目的としており、AI and RAN(RANとAIの設備共通化による設備の利用効率の向上)、AI on RAN(エッジAIアプリケーションによる新規サービスの創出)、AI for RAN(AIによるRANの高性能化と周波数の利用効率の向上)の3つを主要テーマとして、研究開発に取り組むと述べています。


また、韓国のSK Telecomは、Telco LLM(Large Language Models)と呼ばれるキャリア向けの大規模言語モデルと、AIコールセンターやAIアプリなどのサービスに注力しています。同社は、ドイツのDeutsche Telekom、中東のe& Group、東南アジアのSingtel Groupらと、Global Telco AI Alliance(GTAA)の設立総会を開催し、今年中にジョイントベンチャーを設立して、Telco LLMやAIサービスの開発で協力すると発表しています。


「Always-on Connectivity」(常時接続性)の領域では、CSL Groupが新興ブランドとして、rSIMを発表しています。rSIMとは、resilient-SIM(回復力のあるSIM)という意味で、デバイスにとらわれず常に接続性を監視し、通信障害が発生すると、それを即時に検出して、バックアップのモバイル・オペレーター・プロファイルにシームレスに切り替え、迅速な再接続を実現するというものです。


2023年のセルラーIoT接続数は約20億、2033年には約70億に増加すると予測されており、多くの産業がIoTに依存するに伴って、通信障害や計画外のダウンタイムの頻度が増えています。この接続の脆弱性は、医療や公共交通機関のインフラなどの現場では深刻なリスクとなるため、常時接続性は、今後の通信の世界では大きな課題の1つとなりそうです。


その他にも、MWCは一見変わった未来的なガジェットが披露されることでも毎年注目されています。ここでは、その中でも特に興味深い製品をいくつか紹介したいと思います。


Hyodolは、人形型の介護ロボットの開発を行う韓国のスタートアップ企業。モバイル通信モジュール、プロセッサー、各種センサー、スピーカーを備えた同製品には、ChatGPTも搭載されており、シニアと会話をしたり、服薬や散歩を促したり、好きな歌を歌ったりする。また、シニアが長時間活動していない場合は、家族や介護者にアラートを発する。


XPANCEOは、スマートコンタクトレンズの開発に取り組むドバイのスタートアップ企業。同社は、「暗闇でもよく見えるレンズ」、「シューティングを目で操作してプレイするといった拡張現実(AR)を体験できるレンズ」、「医療目的の視力測定用レンズ」などのプロトタイプを開発している。XPANCEOは、これらの複数機能を統合したスマートコンタクトレンズを2025年か2026年までに完成させることを目指している。


Azumoは、フィルム状のイルミネーションディスプレイを開発する米国シカゴのスタートアップ企業。同社の開発するLCD 2.0は、単一のLEDからの光を効率的に利用し、その光を透明な超薄型ライトガイドを通して均一に透過させるため、従来のバックライト式の液晶ディスプレイに比べて、90%も電気消費が少ない。この照明フィルムはガラスや木材、カーボンファイバー、プラスチック、金属などの表面に張ることが可能で、例えば、自動車の車内のあらゆる素材や窓ガラスの上に貼ることで、ディスプレイやタッチ操作機能を追加することができる。


アラブ首長国連邦の衛星通信会社であるThurayaは、衛星接続できるスマホであるSKYPHONEを開発している。同製品は、OSにAndroid 14を採用しているため、通常のスマホと同じように使用できるが、デュアルSIMによってThuraya独自の衛星ネットワークに接続できる。同社は、電波が届かない僻地や海上、また災害時でも通信を行うことが可能なSKYPHONEを、2024年の第3四半期に提供開始予定である。


一方で、SXSWは、毎年米国のテキサス州オースティンで行なわれる音楽祭・映画祭・インタラクティブフェスティバルなどを組み合わせた30万人規模のイベントで、最先端技術の見本市という側面も持っています。今年は、3月8日から3月16日まで開催されました。


SXSWでは毎年さまざまなゲストスピーカーが講演をしていますが、毎年注目を集めているのは未来学者のAmy Webb氏によるテクノロジーの予測です。同氏が今年のSXSWでキーワードとして挙げたのは、新たな「Tech Supercycle」(テクノロジーの大きな周期的変動)の台頭です。過去に起きたTech Supercycleは、電気、産業革命を引き起こした蒸気機関、デジタル化を推し進めたインターネットのような単一の汎用テクノロジーでしたが、現在は、AI、バイオテクノロジー、そしてモノとつながるエコシステムという3つの技術が融合する形で、「Flywheel of Big Leaps」(大きな飛躍のためのフライホイール)を生み出していると指摘しています。この3つのテクノロジーの融合の例として、同氏は、ヘルスケアやスポーツ市場向けのスマートウォッチやスマートリングなどのバイオウェアラブルを挙げ、それが消費者市場にも価値を与えていると述べています。


さらにAmy Webb氏は、具体的な技術トレンドとして次のような予測を出しています。

  • Concept to Concrete AI:AIモデルはより賢くなり、プロンプト(人間がAIに対して送る指示文)が具体的でなくても、人間の言いたいことを理解するようになる。これはすでに、動画生成モデルのPika(https://pika.art/home)やOpenAIのSora(https://openai.com/sora)に見られる。

  • Unsecured AI:オープンモデルのAIが普及するにつれて、かつてない形でAIを操作する方法が増える。そして、AIモデルの悪用に誰が責任を負うのかという説明責任の危機(ユーザーが有害なコンテンツやアプリを生成した場合、その責任は誰にあるのか?)が生じる。

  • Connectables:AIモデルの学習にはより多くのデータが必要となるため、ユーザーからさらに多くのデータを収集するためのセンサーを搭載した新しいデバイスが流入する。それらはセンサーデータであったり、視覚データであったりする。これらの情報は、AIエージェントの概念に似たLarge Action Models(LAMs)につながる。

  • Generative Biology:生成AIの次には、生成生物学が台頭する。実際、Together.ai(https://www.together.ai/)とArc Institute(https://arcinstitute.org/)は、生物学の言語(DNA、RNA、タンパク質)を使って分子やゲノムを予測するEvoを発表している。


今月は、EU議会が生成AIを含む世界初の包括的なAI規制法案を可決するなど、AIに関するトレンドが続きそうです。しかし、AIだけに目を向けるだけではなく、異なる領域にある複数の技術やサービスが融合・統合する「テクノロジーコンバージェンス」を意識しつつ、より広い視野と視座で他のテクノロジーにも目を向けていく必要がありそうです。


Recent Posts

See All

SW 219 - 医療・ヘルスケア領域における生成AIの活用

今回の Seattle Watch では、医療・ヘルスケア領域での生成AIの活用について紹介します。生成AIは、看護師や医師をスケジュール管理や書類作業といった単純業務から解放するだけでなく、画像診断の精度向上や新薬開発プロセスの短縮などの分野でも大きな成果を上げ始めていま...

SW 217 - モビリティサービスの今と未来

今回のSeattle Watchでは、自家用車の所有・運転離れが進む中でのUberやLyftといったライドシェアサービスの現状と、Teslaが最近発表した自動タクシーであるCybercabやJoby Aviationの空飛ぶタクシーといった未来のモビリティについて紹介してい...

Comments


bottom of page