今回のSeattle Watchでは、最近のシアトルの資金調達の実情やスタートアップ動向に加えて、同じワシントン州の第二の都市であるスポケーンのテック関連の動向について紹介をしていきたいと思います。
Webrainは25年以上にわたってシアトルを本拠地としています。これまで何度かお伝えしてきているように、シアトルは、豊かな自然と活気ある文化に加え、世界有数のテクノロジーハブとして知られおり、Boeing発祥の地でもあるこの地域は、世界中からエンジニアや科学者などの優秀なタレントが集まっていて、MicrosoftやAmazonのような大手テック企業だけでなく、多くのスタートアップ企業の創出につながっています。
スタートアップ企業の資金調達額を見てみると、2023年は興味深いことにバイオテクノロジーとヘルスケア関連の企業が投資家から多くの支持を集めていて、そこにソフトウェアと航空宇宙産業が続く流れになっています。2023年にシアトルで最も資金を調達したスタートアップのAvalyn Pharmaは、肺疾患のための治療法を開発するバイオテック企業で、1億7,500万ドル(約260億円)を調達しています。2位のStoke Spaceは、再利用可能なロケットを開発するスペーステック企業で1億ドルを調達し、3位のViome Life Sciencesは、mRNAベースのマイクロバイオーム検査キットを開発するスタートアップで、8,650万ドルを調達してます。
その中で、昨年後半にシアトルのあるエンジニアが立ち上げたベンチャー・ファンドが注目を集めました。Ben Eidelson氏はこれまで立ち上げたスタートアップをGoogleやStripeに売却をした実績を持っていますが、Stepchangeと呼ばれる小規模なファンド(300万ドル規模)を立ち上げています。同社は、二酸化炭素排出量の削減を目指すClimate Techの特にソフトウェア分野に焦点を当てて、すでにスタートアップ4社(Bayou Energy、itselectric、Line.Build、Rhizome)に投資を実行し、主にプレシードおよびシード段階のスタートアップに、10~20万ドルの少額資金を12~18ヶ月のサイクルで、20社以上のスタートアップに投資していく計画を立てています。
スタートアップ企業に資金を投入しているのはベンチャー・ファンドだけではありません。シアトルに拠点を置くグローバル企業4社も、革新的なテクノロジーだけでなく、社会的地位の低い起業家達への支援や環境フットプリントの削減を目指す企業に、独自の資金提供を表明しています。
M12(https://m12.vc)
Microsoftのベンチャーキャピタルファンド。AI、クラウドインフラストラクチャ、サイバーセキュリティ、開発者ツール、垂直型SaaS、Web3/ゲームに重点を置いたアーリーステージのエンタープライズソフトウェア企業に投資。2016年以来、M12は100社以上に投資し、Microsoftのリソースへのアクセス提供などを通じて、投資先企業の成長を支援している。
Amazon Catalytic Capital(https://www.amazoncatalyticcapital.com)
Amazonが2022年に立ち上げたイニシアチブで、黒人や女性といった社会的地位の低い起業家達に1億5,000万ドルの資金を投資することで、VC業界における格差を解消しようとしている。Amazon Catalytic Capitalは、Amazonの上級幹部へのアクセスを提供する幹部メンターシップも提供することで、投資先企業を成功に導いている。
Starbucks(https://www.starbucks.com/)
2023年3月にStarbucksでは、今後6年間で自社の水と廃棄物のフットプリントを半減させるため、5,000万ドルを投資すると発表している。これには、WaterEquityのGlobal Access Fund IVへの2,500万ドルの投資と、水へのアクセス、安全な飲料、そして公衆衛生に対する同額の投資が含まれている。
Allen Institute(https://alleninstitute.org/)
Microsoftの共同創業者であるPaul Allen氏が設立したAllen Instituteは、2022年にAI2 Incubatorをスピンアウトさせている。同組織は、AIスタートアップ企業を支援するために設立された2億ドルのファンドで、これまで30以上のスタートアップを育成しており、開発速度の加速に必要なAIコンピューティングのデータセンターへのアクセスを提供している。
これらのスタートアップエコシステムの動きは、シアトル地域だけではありません。ワシントン州の東端に位置するスポケーン地域にも独自のスタートアップシーンが形成されています。スポケーンは、2022年時点で約23万人の人口を擁するワシントン州第2の都市であり、年齢の中央値は35.7歳です。生活費はシアトルより約30%安く、住宅費は約58%安いため、シアトルに住む余裕がないと感じている若い住民を多く惹きつけています。2024年の調査では、高所得者(年間20万ドル以上)が移住する都市ランキング(高所得者層の世帯比率の前年比成長率)でも、スポケーンが全米で1位となっています。
スポケーンにはGonzaga UniversityとWashington State University(WASU)、そしてWhitworth Universityという3つの主要大学があり、これらの学校はこの地域で優秀な人材の輩出しています。特にGonzaga Universityは、さまざまな分野で全米の大学ランキングに入っています。(日本ではプロバスケットボール選手の八村塁選手が在籍してたことでも有名)
Gonzaga Universityがランクインする主な全米の大学ランキング
学部教育プログラムにおいて全米トップ3%
エンジニアリング、ファイナンス、アントレプレナーシップの学部教育において全米トップ6%
スポケーンには実際に多くの優秀な人材が集まっていて、スタートアップが増えてくるのも自然な流れと言えます。この地域のVCであり、テック・コミュニティのリーダーであるIgnite NorthwestのTom Simpson氏は、この地域で最も急成長しているテック企業25社と、その他注目すべき企業5社で構成される「25+5 List」を作成しており、2024年は、次の5社が各カテゴリーで受賞しています。
CDL PowerSuite:CDL School(商用車運転免許証を取得するための学校)向けのマネジメントソフトウェアを開発。(ベストB2Bカテゴリー)
Revival Tea Company:オリジナルのティー・ブランドを開発。(ベストB2Cカテゴリー)
Gestalt Diagnostics:AIを活用した病理医向けのデジタルプラットフォームを開発。(ディスラプティブカテゴリー)
Vaagen Timbers:環境に優しいプレハブ木材を提供。(社会的責任カテゴリー)
Litehouse Health:オンデマンド看護マーケットプレイスを開発(高い志カテゴリー)
他にも、2023年に2,000万ドルの資金を調達した企業財務データの分析ツールを提供するTreasury4や、企業の支出管理を支援するプラットフォームを提供するVegaCloudなども「25+5 List」に名を連ねています。さらに、スポケーンでは、イノベーター向けのイベントやコミュニティ・プログラムを提供するLaunchPad Inland Northwestなど、起業を支援する団体や経済開発イニチアチブなども増えています。
Webrainでは、継続的にシアトルとその周辺地域のビジネス動向を追いかけています。今回紹介したようなスタートアップ企業や、彼らを支えるエコシステムなどに興味のある方は、いつでも弊社(sales@webrainthinktank.com)にご連絡ください。
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