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SW 246 – エージェント型コマースの台頭

  • ryee62
  • 2 時間前
  • 読了時間: 5分

今回のSeattle Watchでは、2026年1月に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)と、世界最大級の小売業界展示会NRFで注目を集めた「エージェント型コマース(Agentic Commerce)」を取り上げます。AIの進化によって消費者のカスタマージャーニーが大きく変わりつつある中、販売事業者はどのように対応すべきなのでしょうか。

世界経済フォーラム(WEF)の第56回年次総会は、2026年1月19日から23日にかけてスイス・ダボスで開催されました。今年のテーマは「対話の精神(A Spirit of Dialogue)」。130か国から約3,000人のリーダーが参加し、過去最多となる約400人の政治指導者、65人の国家元首および政府首脳、G7首脳の過半数、さらに約830人のCEOや会長が一堂に会しました。加えて、約80社の有力ユニコーン企業やテクノロジーの先駆者も参加しています。


本会議でも最大の関心事はやはりAIでした。特に印象的だったのは、Palantir、Workday、Infosys、Cloudflare、C3.aiといったテック企業の存在感が際立っていた点です。中でも注目されたセッションが「Scaling AI: Now Comes the Hard Part」です。VisaのCEO、Ryan McInerney氏は、同社が推進するエージェント型コマースが消費者、企業、そして国際決済の仕組みに与える影響について、「AIは単に“頼まれたものを買う”段階を超え、ユーザーの嗜好や支出履歴をもとに自律的に購買を行うようになる。日常の食料品から旅行の手配まで、あらゆる購買が対象となる可能性がある。その前提として、消費者と店舗双方を守る強固な認証と信頼の構築が不可欠だ。」と語っています。つまり、消費者がAIエージェントに取引を委ねる世界では、決済エコシステム全体にこれまで以上の「信頼」が求められます。利用者はエージェントを信頼し、企業はそのエージェントが真に利用者の代理であると確信しなければならない。そして金融機関もまた、その取引が確かに利用者の意思に基づいていると判断できる必要があります。


このエージェント型コマースは、1月11日から13日にニューヨークで開催された「NRF 2026 Retail’s Big Show」でも最もホットなテーマの一つでした。エージェント型コマースは、購入するつもりがなかった顧客からの売上を伸ばせることが期待できることから、Morgan Stanleyでは、この新たな購買モデルによって2030年までに米国のEコマース売上が1,150億ドル押し上げられると予測しています。


NRFの基調講演ではGoogleのCEO、Sundar Pichai氏が登壇し、「Universal Commerce Protocol(UCP)」を発表しました。これはAIエージェントが検索から購入、決済までを一気通貫で実行するための共通規格です。例えば、「来週の福岡出張で、予算2万円以内の静かなホテルを予約して」とAIに指示するだけで、在庫確認から支払いまでが自律的に完結する未来が現実味を帯びてきています。そして、GoogleはWalmart との提携を発表し、消費者がGeminiを通じてより簡単に商品を探し、購入できる仕組みを導入すると発表しています。


Walmart は、すでにOpenAIとも提携済みで、「Instant Checkout」という機能(ChatGPTとの会話画面で商品検索から決済、購入までをシームレスに完結させる機能)を導入しています。Instant Checkoutの背後で動作するのはACP(Agentic Commerce Protocol)というオープンプロトコルです。ACPはOpenAIと決済事業者のStripeが共同で開発したプロトコルで、ECサイト(EtsyやShopify)が持つ商品情報をChatGPTの仕組みを通じてユーザーに提示しつつ、決済段階では、SPTという決済トークンを用いて、販売者に直接決済情報なを事業者に伝えることなく、支払いを完了できるようになっています。


エージェント型コマースは、既存のEC事業者にどのような影響を及ぼすのでしょうか?最大の変化は、「販売事業者が消費者から見えにくくなる」ことです。消費者はChatGPTやGeminiといった対話インターフェースから答えを得てしまうため、ECサイトへの流入や検索広告の効果は相対的に低下していく方向性がすでに起きています。そのため、今後は、人間ではなくAIエージェントとの接点(インターフェース)をどう設計するかが重要になります。


読者の皆さんなら既に知っていると思いますが、ここ最近注目されているのが、AEO(AI Engine Optimization)やGEO(Generative Engine Optimization)といったアプローチで、ChatGPTやGeminiのようなAIに「自社のサービスや製品が、ユーザーのプロンプトへの回答や推奨として引用されるか」が新たな競争軸になっています。これは、AI時代におけるSEO(Search Engine Optimization)対策であり、これを支援するツールを提供するスタートアップ企業も台頭しています。


例えば、scrunchと呼ばれるAI検索可視性・最適化プラットフォームは、ChatGPTやClaudeなどのAIエンジンにおけるブランド露出を追跡し、競合比較や誤情報の検知を行いながら、自社のウェブサイトをAI向けにどのように最適化すべきかについて具体的な改善策(例:FAQの拡充や価格の明示など)を提示します。さらに、独自機能である「Agent Experience Platform(AXP)」は、AIクローラー向けの専用サイトを自動生成します。これは、人間向けに設計された従来のウェブサイトを、AIエージェントが読み取りやすい構造へと変換する仕組みです。これにより、AIがサイト情報をより正確に解釈できるようになり、回答内で引用される可能性が高まります。


エージェント型コマースの普及によって、AIが購買や情報選択の主体となる時代が現実になりつつあります。企業にとっては従来の「ユーザー体験(UX)」に加え、「AIエージェント体験(AIX)」を設計することが競争力の源泉となっていくでしょう。Webrainでは、2023年のSeattle Watch(SW 197 - 2023年のSeattle Watch ハイライト)で初めてマシンカスタマー(人や組織の代わりにモノやサービスを購入する、人間以外の経済主体)について取り上げました。当時はまだ概念段階でしたが、わずか2年で実装フェーズに入り、経済に影響を及ぼし始めています。テクノロジーの進化は想像以上に早く、こうした変化をいち早く捉え、具体的なアクションへと移っていくAdaptability(適応力)がますます求められるのではないでしょうか?


Webrain Production Team

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