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SW 245 – CES 2026

  • ryee62
  • 3 日前
  • 読了時間: 7分

今回のSeattle Watchでは、先日開催されたCESのハイライトを紹介します。NVIDIAやLenovoが「AIネイティブ時代」の解像度を一段と高め、多くのテック企業がフィジカルAIの具体的なユースケースを提示しました。その一方で、有識者の間では、AIネイティブの時代だからこそ、私たちが失いつつある「触感」や「所有する喜び」、そして「人と時間を共有する体験」の希少性がむしろ高まっているとの指摘もなされています。

2026年1月6日から9日にかけてラスベガスで開催されたCES 2026では、前年に続き、会場全体がAI一色に染まる光景が広がりました。実際、海外メディアの中には「過去数年で最も印象に残らないCES」と評する声もあり、AIの過剰な訴求に対する疲労感が顕在化していたと言えます。とはいうものの、「AIネイティブ時代」の到来はもはや待ったなしの状況にあり、NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアン氏による基調講演は、なお視聴に値する内容でした。


フアン氏はまず、AIスーパーコンピューターの実現を目的として設計されたRubinプラットフォームを発表しました。Rubinは、6つの新チップを緊密に協調設計することで、AIモデルのトレーニング時間の短縮と、推論トークンコスト(AIモデルが推論を行う際に発生する計算コスト)の大幅な削減を目指したものです。2年前に登場したBlackwellプラットフォームと比較すると、MoE(Mixture of Experts)モデルのトレーニングでは必要なGPU数を4分の1に、推論トークン当たりのコストを最大で10分の1に抑えられるとされており、ここ1〜2年における進化のスピードの速さがうかがえます。


また、あらゆる産業分野におけるAIの進化を加速させることを目的に、新たなオープンモデル群も公開されました。これらのオープンモデルは、NVIDIA独自のスーパーコンピューターでトレーニングされており、ヘルスケア、気候科学、ロボティクス、エンボディド・インテリジェンス(身体的知性)、自動運転といった幅広い領域をカバーしています。これにより、NVIDIAは最先端のAIビルダーとしての立ち位置を改めて強調しました。とりわけ注目されたのが、フィジカルAI(ロボットや機械を自律的に制御するAI)の一例として発表された、自動運転向けの新たなAI基盤「Alpamayo」です。デモ動画では、Alpamayoを搭載した自動運転AIが、人間のドライバーさながらに複雑な交通状況を判断し、切り抜けていく様子が示されました。従来の自動運転システムが、事前に定義されたルールや学習済みモデルに基づいて動作していたのに対し、Alpamayoは状況を理解し、推論し、行動を選択するまでの一連の思考プロセスをAI内部で完結させる点に特徴があります。NVIDIAはこれを「考える自動運転」を実現するための基盤と位置づけています。https://www.youtube.com/watch?v=L0jJrzFMbP8


フィジカルAIが家庭へ入り始めていることを象徴する製品として、Roborockのロボット掃除機「Saros Rover」が注目を集めました。Saros Roverは、ホイール付きの折り畳み式脚部構造を採用しており、段差を乗り越える動作や小さなジャンプ、急停止、方向転換といった、人の動きに近い柔軟な移動を実現しています。床の高さや形状が変化しても、本体は常に安定した水平姿勢を保ちながら清掃を行うことが可能です。同製品は、AIアルゴリズムに加え、高度なモーションセンサーや3D空間認識システムと連携することで周囲の環境を正確に把握し、ホイールレッグを最適に制御しています。また、LGエレクトロニクスはAI搭載のホームロボット「LG CLOiD」を発表しました。このロボットは、家庭内の家電製品と連携しながら家事を実行することを想定して設計されています。冷蔵庫から牛乳を取り出し、クロワッサンをオーブンに入れて朝食を準備するほか、洗濯から乾燥、さらには乾燥後の衣類を畳んで積み重ねるといった一連の作業を自動で行えるとされています。 https://youtu.be/SuyBti4YC-Y


PCメーカーであるLenovoは、PCやスマートフォン、タブレットといった複数のデバイスを横断して動作するAI「Qira」を発表しました。Qiraは、ユーザーの問いかけに応じて反応する従来のチャットボット型AIとは異なり、OSに統合された常駐型のAIとして機能する点が特徴です。アプリを切り替える必要はなく、呼びかけや専用キー、画面上のボタンから即座に起動できます。さらに、Qiraはバックグラウンドでユーザーの作業状況や文脈を把握し、次に必要となりそうな支援を先回りして提示する、「プロアクティブなAI」として設計されています。加えて、Qiraを支えるエコシステムの一環として、ペンダント型のウェアラブルAIコンパニオン「Project Maxwell」も紹介されました。これはLenovoの子会社であるMotorolaが開発を進めているデバイスで、カメラやマイクを搭載し、ユーザーの視界や音声をリアルタイムで捉えながらコンテクストを認識し、状況に応じた洞察や推奨を提供することを想定しています。


競合他社がAIを前面に押し出す戦略を打ち出す中で、あえてAIを強調しない姿勢を明確にしたのがDellです。同社は、AIを売り文句とするのではなく、製品そのものの価値や使い勝手に焦点を当てた訴求を行いました。Dellの製品責任者であるケビン・ターワイラー氏は、「消費者はAIを基準にPCを購入しているわけではありません。むしろAIは、特定の消費者にとってのメリットを理解する助けになるどころか、混乱を招くこともあります。」と述べています。もちろん、Dellの新製品にはすべてNeural Processing Unit(NPU)が搭載されています。しかし、同社はそれをマーケティングで前面に押し出すことはしておらず、AIはあくまで体験を支える裏方として位置づけています。 https://www.pcgamer.com/hardware/dells-ces-2026-chat-was-the-most-pleasingly-un-ai-briefing-ive-had-in-maybe-5-years/


また、AIネイティブ時代のその先を予見するような考えを示していたのが、CES 2026で開催されたセッション「Back to the Future: Tech’s Nostalgic Revolution(テクノロジーのノスタルジー革命)」です。登壇したのは、Reddit共同創業者のアレクシス・オハニアン氏と、Oculus Riftの設計者であり現在は防衛テック企業Andurilを率いるパーマー・ラッキー氏でした。同氏らが提示したのは、AIが社会基盤へ深く浸透するほど、私たちが失いつつある「触感」、「所有する喜び」、「人と時間を共有する体験」をいかに取り戻すかという思想です。便利さや収益化を優先しすぎた結果、体験そのものの純度が薄まっているのではないか、という問題意識が繰り返し語られました。オハニアン氏は、コロナ禍でデジタル・コレクティブルが流行した背景にも触ながら、「人には収集する喜びがある」と述べ、物理的なモノに触れられなかった反動として、デジタル上の所有体験が広がった一方、サブスクリプションのように「手元に何も残らない体験」への違和感を指摘しました。また、ラッキー氏は、レコードやカセットテープが再評価されている現象を引き合いに出し、手触りや所有の価値が再び見直されていると語りました。


両氏が高く評価していたのが、任天堂が一貫して守ってきた「共有体験」の価値です。「大乱闘スマッシュブラザーズ」に象徴されるように、同じ空間に集まり、笑い、盛り上がる体験は、あらゆるものが個別最適化されるAI時代において、むしろ希少な資産になります。任天堂は、新技術を使うかどうかよりも、「どこで使うか」を見失っておらず、その姿勢こそが、AIの時代における重要な戦略原理だと感じさせられます。もう一つの論点は、ハードウェアの多様性です。スマートフォンという形に収束した結果、私たちは形状や操作感の多様性を失いましたが、ラッキー氏は、フィジカルAIの台頭によってプロダクトの形は再び分岐すると指摘します。AIが頭脳を担い、センサーとアクチュエータが身体を与えることで、プロダクトは再び多様な姿を取り戻すという見立てです。その象徴が、ラッキー氏の手掛けたレトロゲーム互換機「ModRetro Chromatic」です。現代技術で、ゲームボーイに感じた当時のワクワクを最高品質で再現することに振り切ったこのプロダクトは、「次に来るのは手触りのある体験だ」というメッセージを明確に示しています。


最後に、ラッキー氏はハードウェアの重要性とともに、Made in USAへのこだわりにも言及しました。これは、「生産を安価な地域にアウトソースするのではなく、作ること自体が文化資産を生む」という思想です。この考えは日本にも当てはまり、「Made in Japanをどう守り、育てていくか?」という問いにも繋がると思います。何を大切にし、何を変えていくかを常に考え、使い手の体験と真剣に向き合い続けることこそが、AI時代における本質的な価値になっていくかもしれません。


Webrain Production Team

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