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  • David Peterman

SW 199 - CES 2024

今回のSeattle Watchでは、今月上旬に米国ラスベガスで開催されたCES 2024にて、特に興味深いと感じられたテクノロジーや製品を、「AI」、「モビリティ」、「人間拡張と通信」そして「ニッチ向けの市場」のカテゴリーに分けて紹介していきたいと思います。


 

皆さんは、完璧なステーキを焼くために3,500ドル(約50万円)もするAI調理機器を買いたいと思いますか?CES 2024で英国のSeergrills社が発表したスマート調理機器は、AIがグリル調理のあらゆる調理工程の瞬間をコントロールすることができます。同社は、週末に自宅でグリル調理をする人たちにこの製品が魅力的で、高額であっても購入してくれることを期待しています。


今年もCESでは、いつものように実用的な製品から、変わり種のガジェットまで、幅広い新製品が披露されました。何十台もの新しい巨大テレビやよりパワフルなコンピューターなどの発表もありましたが、より興味深いテクノロジーは、こういったカテゴリーの外で見られました。全てのカテゴリーを網羅することは難しいので、今回はその中から特に注目すべきものを紹介していきます。


AI(人工知能)

ご想像の通りAIは今年のCESの目玉であり、多くの企業がこの技術を様々な製品に組み込む方法を見つけようと躍起になっています。クリスタルで有名なSwarovski社 もその1社で、同社の5,000ドル(約70万円)のAX Visio双眼鏡は、覗いた先の鳥やその他の動物をAIで識別することができます。


また、AIはUrtopia社のe-bikeにも搭載されています。同社のFusionモデルにはChatGPTが内蔵されており、ユーザーは新しいルートを探索したり、リアルタイムの情報を得たり、楽しい会話をすることもできます。さらに、Rabbit社は、スマホのAIアシスタント機能を小さな赤色のデバイスに移行させたrabbit r1を200ドルで販売すると発表しています。しかし、なぜスマホでもすでに出来ることを別のデバイスで行う必要があるのでしょうか?同社によると、r1を使用したほうが、スマホを通じてそれらの機能にアクセスするよりもより速く、より正確な情報を手に入れられると主張しています。しかし、ユーザーがスマホの他にr1のような別のガジェットをポケットに入れて持ち歩くようになるかは、まだ分かりません。


モビリティ

近年のCESではモビリティ分野の技術が大きな注目を集めていますが、今年はちょっとした意外性がありました。なぜなら、電気自動車の普及が世界中で急速に進む中で、今回のCESでは水素燃料電池が大きな話題を呼んだからです。EVトラックメーカーのNikola社は、すでに顧客への納入を開始した水素トラックを披露し、Hyundai社も、IONIC 5という人気のEVシリーズを持っているにも関わらず、水素自動車の開発と、水素燃料の生産・貯蔵・輸送に向けて動いていることを明らかにしています。さらに、自動車部品メーカーのBosch Mobility社も初の水素エンジンを今年発売すると発表しています。


CESで最もビジュアル面で観客を魅了していたのは、Supernal社(Hyundaiの一部門)が発表したS-A2という空飛ぶEVタクシーです。8つのローターで飛行するこの洗練された乗り物は、時速120マイル(約193km/h)で4人の乗客を乗せることが可能で、同社はこのEVタクシーの飛行音は家庭用食器洗い機のように静かであると主張しています。


人間の拡張と通信

テクノロジーは、人々の自然な感覚を高めたり、病気や怪我による制限を克服したりするために、進歩を続けています。このカテゴリーで最も興味深い製品のひとつが、GyroGear社が発表したGyroGloveで、パーキンソン患者が経験するような手の震えを軽減させる安定化グローブです。これによって震えのない文字を書けるようになります。もうひとつは、Augmental社が開発したMouthPadと呼ばれる舌で操作するインターフェースで、歯科矯正のリテーナーに似た形状をしています。この製品は口蓋に装着して、Bluetooth対応のタッチパッドを舌でタッチすることで、スマホやタブレットを操作でき、手が不自由でマウスやキーボードなどが使えないユーザーでも操作を可能にします。また、騒がしい人ごみの中での会話にストレスを抱えたことがある人であれば、OrCam Hearというイヤホンはお気に入りの製品になるかもしれません。この製品はスマホのアプリと組み合わせることで、人ごみの中で特定の人の声を聞き取り易くし、また周囲の雑音も遮断することができます。


ニッチ向けの市場

CESには、人々が少し戸惑うような新製品も出てきています。これらは一握りの非常にニッチなユーザー層を狙ったものです。例えば、Skyted社のMobility Privacy Maskは、顔を覆うような特大マスクのような見た目ですが、実際には自分が話している声を遮音してくれるマスクで、近くに人が立っていても自分の会話が聞こえないように完全にミュートして、混雑した環境の中でもプライベートな通話をすることができます。また、AIを搭載したペットドアのFlappieは、飼っている猫が家の屋外から鳥やネズミの死骸を持ち込むことを防いでくれる製品です。


毎年のCESから得られる最も重要な収穫は、私たちが購入できる新製品の数々ではなく、むしろ何がテクノロジーによって可能かを教えてくれることです。例えば、Swarovski社は、5,000ドルもするAI双眼鏡のマーケットが極めて小さいことを理解していますが、同社は自分たちの技術で何ができるかを示すことをゴールにしています。今回のSeattle Watchの冒頭で紹介した3,500ドルのAIグリルについても、この製品の市場は限られているかもしれませんが、AIがどのように人々の日常を支援できるかを示してくれています。


CESの出展企業から離れて、少し先の未来を見てみましょう。スタンフォード大学のロボティクス・センターの学生研究グループでは、ロボットに基本的な家事を教えることのできる2本腕を持つ自己完結型の移動ロボット「Mobile ALOHA」を開発しています。ALOHAは、特定のタスクについて簡単に学習させることをゴールにています。例えばコンロでフライパンを使って鶏肉を炒めたり、カウンターにこぼれた液体を拭いたり、キャビネットの扉を開閉したり、シンクでフライパンをすすいだりするといったタスクは、これまでロボットが再現するのは困難でしたが、彼らの技術によって、これまで人間でしか出来なかったタスクを簡単に学習させ、再現させることができるのです。


今回紹介したAIグリルやAI双眼鏡だけでは、私たちの日常生活が大きく変わることはないかもしれませんが、それがさらに進化して、シニアや怪我で体が自由に動かせない人たちの家事や生活を、確実かつ安全に助けてくれるレベルまで来つつある時代に入ってきたと思います。今年はこういった技術が花開き、次のゲームチェンジャーになっていく年になるのではないでしょうか?


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