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  • David Peterman

Issue 154 - NFTがもたらす真の価値

今回のシアトルウォッチでは、最近話題のNFT(非代替性トークン)について取り上げます。NFTは、デジタルアートの取引で最近は話題になることが多いですが、今回はその本質である所有や占有との関係性や、NFTがもつ真の価値や可能性について、実例を交えながら考察していきたいと思います。

 

皆さんは、絵画や彫刻などの美術品のオリジナルを購入したことがあるでしょうか?もしそうであれば、他の誰も手にしていない一点物を所有することの独特の喜びをご存知でしょう。その作品はあなたの所有物であり、それを所有する限りはいつでも楽しむことができるのです。希少性と芸術家の名声から、非常に高い値段がつく美術品があるのは当然で、2021年のオークションで最も高価に落札された作品は、約1億300万ドル(113億円)で落札されたピカソの「窓辺に座る女」という作品です。 https://en.thevalue.com/articles/auction-2021-most-expensive-artworks-top-ten-second-part


しかし、物理的に手にすることのできない美術品に何百万ドルも支払うとなるとどうでしょうか?あまり想像できないことかもしれませんが、まさにこれがここ数年、NFT(Non-Fungible Token)で起きている現象です。広義には、NFTはブロックチェーン上で発行された代替不可能なトークンのことを指しており、このトークンをあらゆるデジタルデータと紐づけることで、そのデジタル資産に固有の価値を生み出して、所有や占有をすることができると言われています。例をあげましょう。NFTをデジタルアートに適用する場合「2022年5月2日にジョン・スミスは、特定のデジタル空間上にあるデジタルアートを購入するために2,000ドルを支払った。」といった情報がブロックチェーンに書き込まれます。その結果、誰がその資産を所有し、各取引でいくら支払ったかという完全な履歴を誰でも閲覧することができるようになるのです。 https://blog.portion.io/the-history-of-nfts-how-they-got-started/


ここで生じる疑問は、デジタルアートを所有するとはどういう事かということです。結局のところ誰でも同じ作品を見ることができますし、そのコピーを自分のPCに保存することもできます。そして、そのコピーはオリジナルのデジタルファイルとバイト単位で同一の複製物になります。では、なぜNFTは価値を持つのでしょうか。実際、CryptoPunk #5822 という単純なビットマップのグラフィック(エイリアンが青いバンダナを巻いた作品)が、2022年2月に2,370万ドル(約27億円)で取引されていますが、なぜそのようなことが起きるのでしょうか? https://www.dexerto.com/tech/top-10-most-expensive-nfts-ever-sold-1670505/


これは非常に複雑な問題ですが、誰でもそのデジタルアートの複製物(コピー)をダウンロードして見て楽しむことができるというアクセス・利用の価値と、世界に一つしかない本物(オリジナル)を所有・占有しているという認識やその価値は大きく異なるということです。結局のところ私たちは所有や占有に対して価値を見出しているのです。そして、実体のある物理的な美術品とは異なり、NFTは、これまでは値付けや取引が難しかった実体のないものに価値を付与している点で、無形資産に対する「所有」という概念にその本質が集約されていると言えます。


私もNFTの理解に苦しむことが多かったので、数ヶ月前、シアトル市街にあるNFTミュージアムを訪れました。このユニークな空間では、壁面に多数の高解像度モニターが設置され、市場で高額取引されているNFTのサンプルを厳選して展示していました。確かにその多くは美術性のあるものでしたが、モニター横の説明書きに記載されているような高値で売れたというのは、やはり理解しがたいことでした。 https://www.seattlenftmuseum.com/


そして結局は、所有や占有の概念は金銭的な信用問題に帰結するということになります。私たちは、紙とインクに過ぎない紙幣に価値があると信じています。これと同様に、NFTを購入する人はブロックチェーン上に書き込まれた記録に裏付けされた「所有」には金銭的な価値があると信用しているということで、それを信じている人がいる限りNFTは価値をもち続けるのです。実際、2021年には推定250億ドルがNFTに費やされており、デジタルアーティストであるBeepleの1枚は6,900万ドル(約75億円)で落札されています。 https://www.vox.com/recode/22907072/web3-crypto-nft-bitcoin-metaverse


残念ながら、こうした高額な取引にメディアが注目したことで、多くの人がNFTをすぐに弾けるバブルと見なしています。市場がいずれNFTのデジタルアートの価格をより合理的な標準まで下げると考えるのは妥当ですが、NFTのコアとなる本質やその応用の可能性を無視してはいけないでしょう。デジタル資産の所有を正確に把握して管理できることは、多くの興味深い可能性を秘めており、実際、これはインターネットの次のバージョンとも言われるWeb 3.0の概念と密接に結びついています。


Web 3.0の詳しい説明は省略しますが、この次世代インターネットは、ブロックチェーン(分散型台帳)で実現する分散型ネットワークというのが基本的な考え方です。このネットワーク構造を通じて、個人はあらゆるデジタル資産を所有する権利を管理することができます。デジタル資産というのは、今日のNFTに見られるような美術品だけでなく、ありふれた情報さえも含まれる可能性があるのです。例えば、今日食べたランチについてSNSで投稿する場合、その投稿を所有する権利をNFTを通じて取得することで、TwitterやFacebookのような大手テック企業から自らのデータの主権を取り戻すことができるのです。


NFTの今後の動向を追いかけるのであれば、デジタルアートのNFT取引にまつわるニュースにはあまり気を取られ過ぎないようにすることをお勧めします。そして、デジタル所有権という考え方が今後どのように法制化されていき、デジタル資産の所有を管理する世界規模のインフラがどのようにビジネス機会を生み出すかについて考えてみると面白いと思います。実際、業界の専門家らは、不動産取引のデジタル化や医療記録の追跡など、NFTによるディスラプト(構造破壊)が起きる可能性のある業界をいくつか挙げており、下記のようなユニークなスタートアップも出てきています。 https://www.fostec.com/en/future-use-cases-nft/

 

<NFTのユニークなスタートアップ企業>

ブロックチェーンスタートアップであるPropyは、現実の不動産取引を円滑に行えるようにするために、スマートコントラクトの概念を導入している。同社は、NFTとして国外にあるアパートを販売し、法的手続きを効果的に処理することに成功しており、2022年には米国でも展開を予定している。Propyでは、不動産購入の記録が変更不可能なブロックチェーン上に置かれ、所有権を示す法的文書へのアクセスを提供する。その結果、購入のプロセスが短縮化され、買い手はわずか数分でNFTに紐づけられた実体のある物件を購入することができる。

Aimedisは、医療従事者であるBen Idrissi博士とMichael Kaldasch氏が開発した世界中の治験情報を記録するオプトインの医療データベースである。医療専門家によって検証された治験データがNFTとしてAimedisにアップロードされると、それらは同社のNFTマーケットプレイスに掲載され、製薬会社や研究者、AIプログラマーが購入することができる。ブロックチェーン技術によって、データの共有に同意した患者は匿名性が維持される仕組みになっている。同社はまだアーリーステージで、2022年までに100万人の患者を登録することを目標としている。

アーティストにとってライブコンサートの売り上げは重要な収入源であるが、チケット転売によってその収益の相当部分を逃してしまっている。Centaurifyは、販売するチケットをNFT化するソリューションを提供することでこの課題の解決に取り組んでいる。ブロックチェーン技術によって、NFTとしてのチケットは完全に追跡可能かつ偽造不可能である一方で、再販価格の上限を設定したり、転売市場でもアーティストが収益を得ることも可能にする。






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