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SW 249 – MWC 2026 Barcelona - The IQ Era

  • ryee62
  • 1 日前
  • 読了時間: 8分

今回のSeattle Watchでは、3月2日から5日にかけてスペインのバルセロナで開催された「MWC Barcelona 2026」を取り上げます。今年のWMCで鮮明になったのは、通信業界の役割の変化です。単なる「接続性(Connectivity)」の提供にとどまらず、あらゆる場所に「知能が溶け込むインフラ」を構築することで、社会全体のインテリジェンスを下支えするといった未来が描かれました。

MWC(Mobile World Congress)は、かつて移動体通信の展示会としての性格を強めていましたが、現在ではAI、クラウド、ロボティクス、衛星通信を含む「デジタル社会の基盤」を議論する場へと進化しています。2026年の公式テーマは「The IQ Era(知能の時代)」であり、MWCを運営するGSM Association(GSMA)は、「データが飽和した世界において、私たちの行動を導くためには、これまで以上に深い思考、批判的分析、そして目的の明確さが重要となっている」とし、次の6つを大きなテーマとして設定しました。


  • AI 4 Enterprise(企業向けAI):実用的かつ業種(セクター)に特化したインテリジェンスの提示。工場フロアでの予知保全、フィンテックにおけるリアルタイム不正防止、物流のデジタルツイン、そして労働力を拡張するエージェンティックAIなど、具体的な活用シーンに焦点を当てる。

  • AI Nexus(AIネクサス):ソブリンAI(主権AI)スタック*が台頭する新時代において、企業や政策立案者が直面する「機会」と「義務(責任)」を議論。イノベーションと倫理的ガバナンスの両立を探求。

  • ConnectAI(コネクトAI):「AIネイティブな通信事業者」への移行が加速。エッジにおける分散型AIやAI搭載デバイス、自己最適化無線、予測型サイバーセキュリティなどを取り上げる。

  • Game Changers(ゲームチェンジャー):業界の境界線を塗り替える破壊的テクノロジーを特集。宇宙ベースのネットワーク、ブロックチェーン活用のエネルギー市場、自律型システム、次世代インターフェース、ムーンショットな素材科学など、次の10年を定義する技術にスポットを当てる。

  • Intelligent Infrastructure(インテリジェント・インフラ):コネクティビティを単なる「コストセンター(費用部門)」から「戦略的価値プラットフォーム」へと変貌させる取り組み。5G Advanced、プライベートネットワーク、衛星・NTN(非地上系ネットワーク)、量子対応データセンターなど、デジタルの屋台骨の再構築を探求。

  • Tech4All:人々を力づけるコネクティビティの実現。国家のデジタル・インフラやオープン・プラットフォームから、気候テック、デジタル・リテラシー、グローバル・サウスのための資金調達モデルに至るまで、包含的なイノベーションを探求。

※ソブリンAI(主権AI)スタック:データやAI基盤、計算インフラを国や企業の管理下(自国・自社内)に置き、地政学的なリスクから技術的自立とセキュリティを確保するための、包括的な技術と運用の階層構造。


基調講演では、各社のCEOらによって、AIネイティブ時代におけるコネクティビティの未来が語られました。最も注目を集めたのは、HONOR(中国のコンシューマーエレクトロニクスメーカー)のCEOであるジェームス・リー氏でした。同氏は、「AIの本質は人間を中心であり続けるべきである。私たちの目標は知能(IQ)と感情知能(EQ)の両方を備え、問題を解決する力と理解する心をもつインテリジェンスを実現することです。」と述べ、「Augmented Human Intelligence (AHI)」の概念を掲げました。


HONORは、パーソナル・インテリジェンス(ユーザーのデバイスに常駐するAIエージェント)、ユニバーサル・インテリジェンス(人類の集合知として、世界の知識をユーザーに届けるAI)、そしてエッジ・インテリジェンス(ロボットやEVなどの物理世界でユーザーの新しい目や手として機能するAI)の3つが融合することで、AHIが実現できると主張しています。その象徴として発表されたのが、HONOR Robot Phoneです。同デバイスは、スマホの背面のカバーガラス内にカメラが収納されており、人間が首を伸ばすように立ち上げることができます。360度回転するこのシンバルカメラ*には、手振れ補正だけでなく、被写体の自動追尾の機能があります。特に興味深いのが、ユーザーが左から話しかければ左を向き、右に歩けばそちらへ顔を向けるなど、カメラにも関わらず実際に生き物と対話をしているかのような動きを見せることです。また、首を縦に振って肯定、横に振って否定するなど、感情を表現したり、再生している音楽のリズムを感知し、ビートに合わせて踊るように首を動かしたりすることも可能だということです。

※シンバルカメラ:揺れを瞬時に補正し、滑らかな動画撮影を可能にするスタビライザー一体型カメラ


一方、NTTの島田明社長は「Photonics Unlocks an Intelligent, Power-Optimized Future」と題した講演を行いました。AIの加速とともに、より多くのデータセンター、より多くのサーバー、そして圧倒的な計算能力が求められています。そこで生じる電力需要の急激な増加という問題への解決策として、同社のフォトニクス(光技術)の優位性を説きました。同社ではかねてから、「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」によって、電気配線を光配線に置き換えることで、2032年までに消費電力を従来の100分の1に削減することを表明しています。また、NTTは光量子コンピュータの分野にも取り組んでいます。極低温や真空といった特殊環境を必要とする従来の量子コンピュータが抱えている拡張性や電力効率に課題に対し、同社の光量子コンピュータは、常温・常圧で動作し、消費電力を大幅に削減できると言います。2030年までに光量子方式で100万量子ビットを実現し、個々の患者に最適化された創薬や、新たなエネルギー資源の創出など、社会的に意義のある課題解決を目指しています。


SpaceXからは、プレジデント兼COOのグウィン・ショットウェル氏と、Starlink責任者のマイケル・ニコルズ氏が登壇しました。両氏は、低軌道上の約1万機の衛星とスマートフォンが直接通信するサービス「Starlink Mobile」の加入者が、1,000万人を突破したと報告しました。 同サービスは、災害時の人命救助や緊急時の通信手段として大きな期待を寄せられています。実際にロサンゼルスで発生した山火事の際には、通信事業者と連携して緊急接続機能を有効化。40万人以上が接続し、25万通のSMS送信と15万件の緊急速報配信が行われました。また、紛争下のウクライナにおいても、現地の通信事業者キーウスターと提携。サービス開始から約2カ月間で300万人以上が加入し、120万通のSMSが送信されたといいます。 さらに、第1世代の20倍の通信性能を誇る「第2世代衛星」によるサービスは、2027年半ばの実用化を目指しています。ニコルズ氏は、地上ネットワークと衛星通信が互いの弱点を補い合うハイブリッドネットワークに触れ、「Starlink Mobileによって、地上ネットワークではカバーしきれない場所もサービスエリアにできる」と展望を語りました。


MWC 2026における議論の核心は、AIが通信インフラの単なる「一部」から、意思決定を担う「中枢」へと昇格した点に集約されます。その中でも、Google Cloudは「Agentic Telco」(エージェント型 テレコミュニケーション)をテーマに、より具体的な次世代のユースケースを提示しました。


1. 自律型ネットワークの運用 :5Gへの投資を確実な収益へと結びつけるため、人間の介入を介さず、ネットワーク自らが問題を特定・診断・修復する「自律化」が加速。その中核をネットワーク・デジタルツインが担う。 具体的には、Cloud Spanner Graphを用いてネットワークの物理的・論理的状態を動的なグラフとして表現し、リアルタイムのパフォーマンスと過去の履歴を高速に照会。さらに、Vertex AI上でグラフニューラルネットワーク(GNN)を時系列で学習させることにより、障害が波及する前の予防的な対応を可能に。また、特定の障害対応タスクでは、AIエージェントが自動で情報を収集し、原因特定や対策のサジェストまで実行。人間がその結果を承認するだけで運用が完結する、エージェント主導のオペレーションの確立を目指している。


2. リアクティブからプロアクティブへ :通信業界が長年抱えてきた「壊れてから直す」というリアクティブ(事後対応的)なサポート体制も、AIエージェントによって根本から変わろうとしている。 Google CloudはAmdocsと提携し、「エージェント型コンタクトセンター」を発表。これにより、顧客が不満を感じて問い合わせる前に、AIがネットワークの不調や請求の誤りを察知。自律的に通信のリセットや請求修正を行い、トラブルを未然に防ぐ「プロアクティブな顧客体験」を実現しようとしている。


3. デジタルからフィジカルへ広がるAIエージェント:AIエージェントの活躍の場は、サイバー空間から物理世界(フィジカル)へと広がっている。KDDIおよびローソンと連携したPhysical AI(物理AI)ロボットの実証実験では、商品棚の欠品を検知し、ロボットアームが自動で商品を補充するデモが披露された。このシステムはGemini Roboticsを活用しており、「黄色のチョコレートを補充してほしい」といった曖昧な自然言語による指示にも対応可能。Geminiが「脳」として人間の意図を理解・推論し、それを正確なアームの動作へ変換することで、目的の商品を的確に選び出すことができる。


今年のMWCでは、OpenAIやAnthropicといったAI開発企業ではなく、より物理的なインフラや現実世界に近い通信事業者目線でのAIネイティブ時代のあり方が垣間見えたように思えます。AIが通信の「脳」となり、ネットワーク自体が自律的に思考し、行動する。この「Agentic(エージェント型)」へのシフトは、もはやコンセプトではなく、具体的な実装フェーズに入っています。「The IQ Era」というテーマの下で議論された「知能が溶け込むインフラ」の未来に、引き続き注目していきたいと思います。


Webrain Production Team

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