SW 233 – フードテック市場の定点観測
- Webrain Production Team
- Jul 4
- 7 min read
今回のSeattle Watchでは、フードテックの最新動向について紹介します。直近では、VC投資額は減少しているものの、レストランテック、機能性食品、培養肉などの特定分野が注目を集めており、未来の食に向けて堅調な成長を遂げています。
Webrainでは、過去のSeattle WatchやWebrain Reportでフードテック市場の動向を定期的に追いかけてきました。私たちがフードテックを追いかける理由は、同市場が、世界的な食糧需要の増加、フードロスなどの社会問題への関心、より持続可能な食料システムへのニーズ、そして健康や環境に配慮した食品への需要の高まりといった大きな潮流の交差点に位置しているためです。
Seattle Watch #218 「フードテックをホリスティックな視点で捉える」
Webrain Report #225 「Alternative Food Sources」
Webrain Report #219 「Flavor Tech: Marriages of Flavors and Tastes」
Webrain Report #215 「Edible Intelligence: Data-driven AgriFood Revolution」
PitchBookの発表によると、2025年第1四半期には、202件の取引を通じて14億ドルのベンチャーキャピタルがフードテック分野に投資されました。取引額は前四半期比49.6%減少していますが、同市場は2024年の約2,050億ドルから2,500億ドルの規模から、2030年には3,500億ドルから6,010億ドルに成長する見込みで、この期間で年平均成長率(CAGR)は9.9%から11.6%と予測されており、堅調な二桁成長を遂げています。
同社のデータによると、フードテック分野の中でも特定のセグメントで特に明るい兆しが見られています。例えば、レストランテック分野では、主要都市の人気レストランの予約サービスを提供する会員制予約プラットフォームであるDorsiaが、シード/シリーズAラウンドで2025年2月に5,040万ドルの資金調達を実施しました。同社は単なるレストランの予約サイトではなく、世界中のラグジュアリー層が食事、イベント、ナイトライフを体験するホスピタリティを、テクノロジーとシームレスなアクセスを通じて変革することを使命としています。そのため、ニューヨーク、マイアミ、ロンドン、ロサンゼルス、ドバイ、メキシコシティ、さらに季節ごとのホットスポット(イビザ、サントロペ、サン・バール、アスペン、ハンプトンズ)に300以上のパートナー施設を展開し、Dorsiaは世界的なラグジュアリー・ダイニング・ネットワークを確立しています。会員はエントリーレベル(年間175ドル)またはプレミアムプラス(年間25,000ドル)を選択でき、予約数、レストランの総取引額、および全体収益で記録的な増加を実現しています。
また、機能性食品分野では、2025年3月に大手飲料メーカーのPepsiCoが、健康志向のソーダブランドであるPoppiを19億5000万ドルで買収すると発表しました。飲料業界では 「機能性ソーダ」と呼ばれるカテゴリーが伸びており、Poppiのソーダにはプレバイオティクス(腸内の善玉菌の栄養源となり、その増殖を助ける食品成分)と果汁、アップルサイダーが使用され、1人分当たり5グラム以下の砂糖(一般の炭酸飲料は1缶に約39グラムの砂糖)を含んでいます。競合企業のOlipopも、砂糖をわずか2〜5グラム、食物繊維9グラム、そして消化器官をサポートする成分を組み入れながら、45カロリー以下に抑えた炭酸飲料を販売しており、直近のラウンドで18.5億ドルの評価額を得ています。これらの製品は、オーガニック食品を取り扱うWhole Foodsなどのスーパーマーケットで販売されています。
さらに、培養肉分野でも商用化に向けた動きが進んでいます。Mission Barnsは、非遺伝子組み換えの豚細胞を培養し、植物原料と組み合わせてベーコン、ソーセージ、ミートボールなどの代替食品に使用する培養豚脂肪を開発しています。同社は2025年3月に、アメリカ食品医薬品局(FDA)の安全性審査を通過し、世界で初めて培養脂肪の安全性が認められたことを発表しました。細胞性食品としては、GOOD Meat、Upside Foodsに続く3例目となります。現在、Mission Barnsはアメリカ農務省(USDA)の検査証書および表示認証のプロセスを進めており、製品はSprouts Farmers Marketなどのスーパーマーケットチェーンや、サンフランシスコのイタリアンレストランFiorellaで提供が開始される予定です。同社が脂肪の培養肉にこだわる理由は、「消費者は美味しくない食品を食べない」というシンプルで重要な視点からで、培養脂肪は少量の使用でも植物肉の味や食感を向上させることが期待されており、肉製品の一部として混合されるため、培養肉のような成形化の課題がなく、市場投入のしやすさやコスト面での優位性があると考えられています。
その他にも、ユニークなテクノロジーやビジネスモデルを持つフードテックのスタートアップが台頭しており、ここではその代表的な4社をご紹介したいと思います。
GrubMarket (https://www.grubmarket.com/hello/)
食品EコマーススタートアップのGrubMarketは、北米の消費者と地元の新鮮な農産物の供給者を中間業者を介さずに直接つなぐことを可能にするソフトウェア技術を提供しています。具体的には、地元の農家や生産者から直接食材を仕入れ、顧客の玄関先まで配送するD2Cプラットフォームや、レストラン、学校、企業などに新鮮な食材を供給するB2Bプラットフォームに加え、食品サプライチェーンのデジタル化を促進するソフトウェアも開発しています。同社はAIにも注力しており、生産者、卸売業者、流通業者、物流企業向けのAIアシスタントを開発しています。このAIは、業界で扱われる非構造的なデータ(ボイスメール、紙のメモ、複数のプラットフォームにまたがるテキストメッセージ)を取り込み、統一されたフォーマットに変換してシステム全体で利用できるようにすることを目指しています。
Apeel (https://www.apeel.com/)
フードロスに取り組むApeel Sciencesは、野菜が自身を保護する部分からオイルを抽出し、スプレーとして野菜に吹きかけることで鮮度を維持する技術を開発しています。例えば、キュウリ、オレンジ、レモンなどにスプレーを吹きかけると、野菜や果物の表面に見えない「コーティング」が形成され、生鮮食品の水分が保持され、酸化を防ぎ、通常の2~3倍長く保存できます。この技術は、米国のWalmartやKrogerなどのスーパーマーケットで既に導入されています。また、同社は2021年に、内部を可視化するハイパースペクトルイメージング技術を有するスタートアップであるImpactVisionを買収しています。これにより、野菜や果物の内部を調べ、成熟度、鮮度、植物栄養素含有量に関する情報を収集・活用することで、サプライヤーや卸売業者は各農産物の状態に応じて、出荷先を決定することができるようになります。
Food Brewer (https://www.foodbrewer.com/)
バイオテクノロジー企業であるFood Brewerは、植物細胞培養技術を活用して、持続可能な方法でカカオやコーヒーなどの食品原料を開発しています。カカオやコーヒーは生産に多くの資源を必要とし、最初の収穫まで数年を要する上、生育環境が限定され、気候変動の影響を受けやすい植物です。同社は、植物サンプルから細胞株を樹立し、制御された環境下のバイオリアクターでカカオとコーヒーを培養することに成功しており、細胞が十分な量に達すると、バイオマスを回収し、乾燥して粉末状に加工します。さらに、培養に適した細胞を効率的に特定し、新たな細胞株を数週間で樹立できるプロセスを編み出し、特許を取得しています。Food Brewerでは、Fruitful AIとの提携によって、植物細胞の成長を追跡する高度なアルゴリズムを活用し、長期的なコスト効率を高め、現在の市場価格で入手可能な製品を実現することを目指しています。
True Essence Foods (https://www.trueessencefoods.com/)
True Essence Foodsは、Flavor BalancingとFlavor Symmetryという独自技術を開発し、添加物や保存料を使用せずに風味と鮮度を保護する技術を開発しています。Flavor Balancingは、迅速な加圧プロセスを使用して発酵製品の不快な風味や強い味を取り除き、最も純粋な味わいを引き出します。コーヒー、チョコレート、スピリッツ、ビネガーなど、さまざまな製品の風味を強化します。一方、Flavor Symmetryは、果物、野菜、ハーブ、スパイス、ジュースや濃縮物などの新鮮な製品に対応するよう設計されており、独自の分子フィルターを使用して水分を原子レベルで分離・除去し、製品の風味、香り、栄養成分をそのまま保持します。これらの技術によって、同社は食品の風味を保つだけでなく、食品ロスの削減にも貢献しています。
日本でも、令和の米騒動として米の需給問題が広く注目を集めていますが、こうした問題は一過性のものではなく、供給の不安定化やサプライチェーンの構造、需要構造の変化など、複雑な要因が絡み合った長期的かつ深刻な課題です。生産調整や政策などによる改善も大切ですが、今回紹介したようなフードテックによるドラスティックな変化がますます求められていると感じます。
Webrain Production Team
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