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  • Toshi Akashi

Issue 122: The New Normal - The Social Distancing Economy - Part 2

2020年も残すところあとわずかとなり、本年も皆さまには大変お世話になりました。今回は、2回目となるソーシャルディスタンシングの世界をお届けします。この1年を振り返りますと、世界中で大きな社会変化を受け入れなくてはならなくなった年でした。米国でもワクチン接種が始まりましたが、2021年以降も当面リモートワークは続いていく模様です。来年はどのような1年になるのでしょうか?

期待と不安が交差する年になりそうですが、皆さまが良いお年を迎えられることを願っております。


 

災害資本主義(Disaster Capitalism)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?カナダのジャーナリストであるNaomi Klein氏は、「歴史的に大災害が起こると資本家は、平時では導入することができないソリューションを、目の前の危機を解決するために実行して導入してきた。」と主張しています。つまり、テロや自然災害や戦争などの有事では、平時には考慮されるROI(投資対効果)やプライバシーの問題よりも有事の収束が重視される結果、新しいソリューションの導入が進むということです。 https://theintercept.com/2017/01/24/get-ready-for-the-first-shocks-of-trumps-disaster-capitalism/

この災害資本主義の事例としては、2005年に発生したハリケーンカトリーナの大災害後の大規模な建設需要を機とした経済改革や企業の利益追求がありますが、もっと遡れば、14世紀から15世紀にかけて中世ヨーロッパがペスト(黒死病)の危機に直面しながらも、ルネサンスを生み出した歴史にも近いものが見い出せるかもしれません。 https://media.b-ownd.com/archives/article/コロナと文化発展の可能性 ~ルネサンス~

そして、私たちが直面している新型コロナウィルスという未曾有の危機にも、この災害資本主義の考え方は当てはまります。前述のNaomi Klein氏は、1930年代にフランクリン・ルーズベルト元大統領が世界恐慌を克服するために行ったニューディール政策のオンライン版という意味で、スクリーン・ニューディール(Screen New deal)という言葉を提唱し、多くのテック系企業がパンデミックを機に教育や経済、医療などの分野にテクノロジーを一気に普及させようとしている動きを警鐘を鳴らしつつ説明しています。 https://theintercept.com/2020/05/08/andrew-cuomo-eric-schmidt-coronavirus-tech-shock-doctrine/

例えば、Landing AIは、職場でのソーシャルディスタンシングをモニタリングするツールを、Starship Technologiesは、荷物を配達する自律型の移動ロボットを、さらにVital IntelligenceはDraganflyと共同で人々の健康状態をドローンから検知できる仕組みを開発しています。これらの非接触型のテクノロジーは、コロナウィルスの感染拡大を防ぐという点で私たちの生活に大きく貢献しています。その一方で、人間の仕事が機械に代替されることに起因する雇用の問題や、個人のデータが第三者の利益追求に利用されるというプライバシーの問題が生じつつあることも確かです。この非接触型のテクノロジーが増えてきている点について、前述のKlein氏は「触れる」という人間的な温もりが失われ、監視が強化される世界に向かっていると危機感を示してます。

このコロナ禍では、イギリス作家であるジョージ・オーウェル氏の「1984年」が再び注目を集めています。というのも、この小説の中で登場するテレスクリーンや二重思考(ダブルシンク)などの全体主義的な思想統制は、テック系企業による様々なテクノロジーの導入や、各国政府によるコロナ対策に垣間見ることができるからです。 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72066

これまでテクノロジーは私たちの生活をより豊かにし、便利な社会の実現に役立ってきましたが、これからの時代は、テクノロジーをどのような思想に基づいて、どのような世界を実現するために使うのかという、より長期的で包括的な視点が一層重要になってくるように思います。


 

<非接触型のテクノロジー>


Landing AI (https://landing.ai)

Landing AIは、職場での物理的な距離を維持するために、CCTVカメラと統合できるソーシャルディスタンシング検出ツールを開発している。このソフトウェアでは、任意の2人の間の空間を測定することで、既定値を超えて近づいた人を特定することができる。同製品では、CCTVカメラの2次元の画像を鳥瞰図(トップダウン)の画像に変換することで人同士の正確な距離を算出する。ビデオの画面の中に映っている人物をボックスで囲い、過度に接近している人のボックスが赤い線で囲われる。


Starship Technologies (https://www.starship.xyz)

Starshipは、半径4マイル(約6キロ)圏内の場所に商品を運ぶことができる自律型の移動ロボットを開発しており、小包や食料品、レストランの食事などの商品を配送するのに利用されている。このロボットは、重さが100ポンド(約45kg)で、人間の歩行者と同じ速度で移動し、人を含む障害物を避けながら移動する。配送に使用する場合は、ロボットの貨物室を施錠することが可能で、受取人はそのロボットの現在地や予定到着時刻をスマートフォンで確認することができ、ロボットが目的地に到着すると、受取人はスマホアプリを使って貨物室のロックを解除して、荷物を受け取ることができる。


Vital Intelligence and Draganfly (https://draganfly.com)

イスラエルのサイバーインテリジェンス企業であるVital IntelligenceとカナダのドローンメーカーであるDraganflyのジョイントベンチャーは、コロナウイルスの拡散を抑えるために、感染者や呼吸器疾患を持つ人を検出してモニタリングすることを目指している。Pandemic dronesと呼ばれるドローンには、Vital Intelligenceが開発した体温、心拍そして呼吸数を検知できるセンサーとコンピュータービジョンシステムが搭載される予定である。このセンサーでは、人ごみや密集して仕事をしている場所で、くしゃみや咳をしている人を検知することができる。

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