SW 243 – 2025年の振り返り
- ryee62
- 2025年12月26日
- 読了時間: 9分
いつもSeattle Watchをご愛読いただき、誠にありがとうございます。今回は、2025年の締めくくりとなる号となります。本号では、今年Webrainが新たに取り組んだプロジェクトをご紹介するとともに、2025年に発行したSeattle Watchの中から、特に皆さまの関心が高かった記事をピックアップしてお届けします。来年も、テクノロジーや社会の変化を捉えながら、時代の変化に先回りするプログラムやサービスを展開していく予定です。どうぞご期待ください。
2025年のWebrain
Women in Leadershipを初開催
今年7月から11月までの4か月間にわたり、SI企業の次世代女性リーダーを対象とした新プログラム 「Women in Leadership」を初開催しました。日本のジェンダーギャップ指数は146か国中118位にとどまり、日本企業における女性役員比率も約15%と、G7各国の標準である30%以上と比べて大きく遅れています。こうした課題意識を背景に、本プログラムは、個人のマインドセット変革と組織の構造的課題の解決を両輪として設計した伴走型プログラムになります。参加者ひとり一人のマインドセット変革に重きを置き、日米でそれぞれロールモデルとなる女性リーダーとの対話を通じて、リーダーシップやエンゲージメントのあり方、さらにリーダー像の固定観念やアンコンシャス・バイアスを認識・解消し、自信を育むことを目指しました。また、組織の構造的課題に対しては、シアトルのテック企業での昇進・評価制度やキャリア開発機会のリアルを参考として学び、さらには育児や介護とキャリアの両立を支援する制度のあり方について考察を深めました。参加者からは、「米国の多様な女性リーダーの在り方や考え方に触れ、自身が目指すリーダー像を見つめ直すことができた」、「多様性とはジェンダーに限らず、人種や宗教などを含む、より広い概念であると再認識した」、「リーダーとして、より高い視座を持つことの重要性を理解した」といった声が寄せられ、最終的には、参加者自らが自社の経営層に対し、ジェンダーダイバーシティ推進に向けた提言を行いました。今年、日本では初の女性首相が誕生するという歴史的な節目を迎え、女性リーダーの活躍に対する社会的な期待は、今後さらに高まっていくと予測されます。
Growth Labの立ち上げ
近年、多くの企業様から、「北米進出の機会を加速させたい」や「有効なターゲットの仮説検証をスピーディーに進めたい」といった声を多く伺うようになりました。こうしたニーズを背景に、米国市場への進出と成長を加速させる実践型ラボ「Growth Lab」を新たに立ち上げました。メインサービスの 「US Entry Support」では、Webrainが思考と実行の両輪で支える北米事業のローカルパートナーとして支援します。単なるコンサルティングやアドバイザリーにとどまらず、皆さまと同じ視点に立ち、戦略策定から実行まで、現地でともに汗をかきながら走ります。今年は、B2Cブランドの米国事業立ち上げ支援(スキーム構築、市場リサーチ、拠点立ち上げに関するセカンドオピニオンの提供など)や、日本の新興アートブランドによる海外巡回販売展の現地サポート(記事はこちら)を実施しました。日本企業の海外進出の成功率は30〜40%程度とされており、なかでも米国進出は特にハードルが高い市場だと言われています。Webrainでは、25年以上にわたる現地での実務経験を通じて培ってきたベストプラクティスや、時に生々しい失敗事例を含む知見を共有することで、北米事業の成功確度を高めることに貢献していきます。
プログラムの刷新や改善に伴い、当社ウェブサイトのリニューアルも行いましたので、より詳細を知りたい方はぜひ新しいウェブサイトを除いてみてください。
2025年のSeattle Watchハイライト
次に、今年弊社で取り上げたテクノロジーや米国の社会トレンドからいくつかをご紹介します。
米国をはじめ先進国では、ベビーブーム世代の大量退職に伴い、高齢化が加速しています。この流れの中で、平均寿命と健康寿命の差(不健康期間)が大きな社会課題となっており、医療費負担の増大や介護リスクの顕在化が深刻な問題となっています。こうした背景から、健康寿命の延伸を支えるテクノロジーへのニーズが高まっています。例えば、OpenAIのCEOであるSam Altman氏が投資しているRetro Biosciencesは、人間の平均寿命を10年延ばすことを目指すスタートアップで、造血幹細胞を骨髄移植によって置き換えたり、血漿交換による若返りを追求したりする研究を行っています。日本発のTAZも、老化細胞除去成分を用いた商品企画開発、加齢に伴う疾患のバイオマーカー開発とそれらの疾患に対する創薬研究などを行っています。一方で、社会学的な観点からは、「死生観」の再考が重要視されています。つまり、テクノロジーが延命を可能にする一方で、「個々人がどのような生き方・死に方を望むかという価値観の多様性を受け入れる必要があるのではないか」という問いかけも提示されているのです。
米国には古くから、外部アクセスを遮断したゲーテッド・コミュニティ(Gated Community)が存在し、フェンスや壁で囲われた住宅街の内部で住民が自治的に生活インフラを維持する仕組みが浸透しています。これらは富裕層向けの排他的住宅として発展し、現在では約1,500万人(米国人口の約4%)が住み、プライバシーや安全性への強いニーズを反映しています。ただし、こうした隔絶された空間は社会的分断を助長するとの指摘もあります。一方、都市プランナーは、壁やフェンスに頼るのではなく、コミュニティの絆や社会資本の強化を通じた犯罪予防(サスティナブル・コミュニティ、ニュー・アーバニズム)といった別の町づくりの方向性も提唱しています。また、日本発の大型アミューズメント施設「ラウンドワン」は、米国で50店舗以上を展開し、地域社会で「安全で安心できる居場所」としての役割を果たしつつあります。既存のショッピングモールや学校などの社会施設が機能を失う中で、こうした新たなコミュニティの拠点が人々の交流や若者の居場所づくりに寄与しています。
フードテック市場は、2030年に向けて約2,500億ドルから3,500〜6,010億ドルへと成長すると予測されており、年平均成長率(CAGR)で約10%超の堅調な伸びが見込まれています。こうした背景には、世界的な食糧需要の増加や持続可能な食料システムへのニーズ、フードロスや健康・環境配慮型食品への関心の高まりといった大きな社会潮流の交差点としてのポテンシャルが存在します。レストランテックでは、プレミアム会員制の予約プラットフォームを提供するDorsiaが大きな資金調達を行い、機能性食品分野では、PepsiCoによる健康志向飲料ブランドPoppiの買収や、低糖・高機能炭酸飲料のOlipopの高評価など、消費者の健康志向ニーズに応じた製品群が成長しています。さらに、培養肉セグメントでも、Mission BarnsがFDAの安全性審査を通過し、培養脂肪を用いた代替肉製品の商用化に向けた動きが加速しています。フードテック市場は単なる技術革新の領域にとどまらず、食の未来に向けた社会課題解決の交差点として注目されており、今後も多様なプレーヤーとユースケースが生まれていくことが期待されます。
AIが労働力の一部として浸透する中で、リーダーシップの定義自体が再構築されつつあります。AIエージェントは単なるツールではなく、チームの一員として機能するようになり、「AIを使う人」ではなく「AIを導く人」が求められる時代が到来しています。特に、Microsoftの「2025 Work Trend Index」では、こうした役割を担う新しいリーダー像として「Agent Boss」が提唱されており、AIエージェントの構築・運用・評価を行い、人間とAI双方をマネジメントする役割が重視されています。さらに、AIが企業のリーダーとなる可能性も議論されています。一部企業ではAIをCEOとして導入する実験が行われており、業務効率の向上が報告される一方で、感情的な共感や組織内の人間関係理解に課題があるという声も挙がっています。このような実例は、AIが意思決定や分析に強みを持つ一方で、ソフトスキルや人間らしさを要するリーダーシップが依然として不可欠であることを示しています。
メンタルヘルスの問題は世界的に深刻化しており、WHOによると10億人以上が何らかの精神疾患を抱え、うつ病や不安障害が主要な健康・経済課題となっています。こうした背景から、AIを活用したメンタルヘルス支援への期待が高まっています。例えば、Ashのような心理学専用の基盤モデル上に構築されたAIや、Psyrinのような音声解析による早期スクリーニング技術のようなサービスが登場しています。一方で、AIの使い方によっては新たなリスクも生じています。いわゆる「AI精神病(AI Psychosis)」と呼ばれる現象は、AIとの過度な対話により妄想や現実認識の歪みを引き起こすリスクの象徴として議論されています。こうした状況を踏まえ、企業や研究者はAIのリスク低減と安全設計に向けた取り組みを進めており、ユーザーの偏った表現にただ同調するのではなく、適切に反論や是正を試みるAIモデルの開発や、臨床精神科医の専門知識を取り入れた安全対策の強化などが行われています。
2026年は、どのような一年になるのでしょうか。Bank of Americaの調査によると、2026年の米国株式市場は、AIブームに乗り遅れることへの不安(FOMO:Fear of Missing Out)と、AIバブル崩壊への警戒感の間で投資家心理が揺れ動き、ボラティリティが高まりやすい局面になると見られています。一方で、CESを主催する全米民生技術協会(Consumer Technology Association:CTA)のスポークスパーソンであるブライアン・コミスキー氏は、「先進技術への投資は依然として堅調である」と分析しています。その背景として、AI分野への投資拡大に加え、クラウド企業によるサイバーセキュリティ企業の買収(M&A)の活発化などを挙げています。さらにMicrosoftでは、次世代コンピューティングとして期待される「量子コンピューティング」が、「数十年先ではなく、数年先の技術」へと移行しつつあると指摘しています。同社のディスカバリー&クアンタム担当のジェイソン・ザンダー氏は、「量子優位性(量子コンピューターが従来のコンピューターと比較して、より正確、より安価、またはより効率的に計算を実行できる状態)が目前に迫っている」と述べており、量子優位性の到来は、材料科学や医療分野をはじめ、さまざまな領域において革新的な成果をもたらすことが期待されています。
Webrainでは、今後もこのダイナミックな変化を冷静に見極めながら、皆さまにとって価値のあるインテリジェンスを提供していければと思います。少し早いですが、本年も大変お世話になりました。どうぞ健やかに新しい年をお迎えください。
Webrain Production Team


