今回のSeattle Watchでは、より自律的なCobot(協働ロボット)の進化について紹介していきます。
生成AIの後押しを受けて、Teslaが開発するOptimus(二足歩行の人型ロボット)に代表されるような汎用ロボットの開発が進んでいます。今後、こうした汎用ロボットは工場や倉庫などの現場の中にますます入っていくことが予測されており、人間の作業者は彼らと信頼関係を築きながら、より安全で生産性の高い現場を作っていくことが期待されています。
2022年に発行したWebrain Report(こちら)でも紹介したCobot(協働ロボット)ですが、AIの進化がその開発に追い風を与えており、成長期待が高まっています。Cobotとは、Collaborative Robotの略で、工場や倉庫、接客の現場で人間と同じ空間で一緒に作業を行えることが特徴の産業用ロボットの一種です。Cobotは従来の産業用ロボットと比較して、小型で軽量に作られており、省スペースでの運用が可能になっています。矢野経済研究所の調査によると、Cobotの世界市場規模は2021年の1,497億円から2032年には1兆530億円に成長すると予測されています。
この市場で特に注目されているのは、汎用ロボットの開発です。汎用ロボットとは、周囲の環境や求められているタスク目標を認識・把握し、人間の自然言語による指示の意図を適切に理解して、初めての環境にも対応しながら作業を行える柔軟性の高いロボットのことを指します。こうした汎用ロボット開発の背景には、大規模基盤モデル(多種多様なデータで学習させた大規模ニューラルネットワーク)の進化があります。
例えば、Google DeepMindは各国の学術研究所と共同で、ロボットのトレーニングを進化させるために、Open X-EmbodimentというデータセットとRTXというモデルを開発しています。同社はこのモデルとデータセットを組み合わせることで、ロボットに高い汎化性能を持たせられると主張しています。NVIDIA も、ヒューマノイドロボットの汎用基盤モデルであるProject GR00Tを発表しています。同社では、「GR00Tを搭載したロボットは、自然言語を理解し、人間の行動を観察することで動きを模倣するように設計されており、現実世界をナビゲートし、適応しつつ、対話するための調整能力、器用さなどのスキルを迅速に学習する。」と述べています。
こうしたAIの進化によって、汎用性の高いCobotが商用化され始めており、今回はその中でも特に興味深い5社を紹介したいと思います。自律的な汎用ロボットが本格的に現場に導入されるようになると、「人間の作業者がロボットに作業を教える時代」から、「作業者のパフォーマンスを最大限引き出すようにロボットが人間に動作を教える時代」に向かうかもしれません。
1. Agility Robotics(https://agilityrobotics.com/)
Agility Roboticsは、2015年にカリフォルニアで設立されたスタートアップ企業で、2023年3月に次世代型ロボット「Digit」を発表している。Digitは全高175cmの人間サイズの二足歩行ロボットで、最大16kgの荷物を運ぶことができる。24時間のうち16時間稼働し、自律的にドッキングステーションに接続して充電する機能を持つ。Digitは、倉庫や物流配送センター内で人間と同じ行動範囲をカバーし、資材の搬送をはじめとする作業を安全に行うことを目指している。最新のセンサー技術とAIアルゴリズムを搭載しており、カメラやLiDARセンサーを使用して周囲の環境を認識する。これにより、複数台のDigitが同じ場所で自律的に動作することが可能である。Amazonは2023年10月に物流拠点にDigitを試験導入すると発表している。
2. Figure(https://www.figure.ai/)
Figureは、2022年にテキサス州オースティンで設立されたスタートアップ企業で、現在の労働力不足や高齢化による労働力拡大の難しさを背景に、自律型ヒューマノイドロボットの開発を行っている。同社の人型ロボット「Figure 01」は全高170cmで、最大20kgの荷物を運ぶことができる。Figureは、2024年2月にOpen AIと提携しており、環境を詳細に把握して自律的に行動するだけでなく、ChatGPTのGPT-4を搭載することで、人間と自然に会話しながら作業を行うロボットの開発を目指している。同社は、Microsoft、OpenAI Startup Fund、NVIDIA、Jeff Bezos氏などから6億7,500万ドル(約1,020億円)を調達し、評価額は26億ドルに達している。また、2024年1月にはBMW Manufacturingとの提携を発表し、自動車製造環境でのロボット導入を進めている。
3. Covariant(https://covariant.ai/)
Covariantは、2017年にOpenAIからスピンオフしたロボット工学の企業で、大規模言語モデル(LLM)の推論スキルと高度なロボットの身体的器用さを組み合わせたシステムを開発している。同社の「RFM-1」と呼ばれるAIモデルは、Crate & BarrelやBonprixなどの顧客企業が、世界中の倉庫で使用している商品ピッキング・ロボットから収集した数年分のデータと、インターネット上のテキストや動画に基づいて訓練されている。RFM-1は、ロボットが周辺の世界を観察し、類推し、行動することを可能にしており、倉庫作業におけるピッキングなどの一般的なタスクを行う産業用ロボットアームに展開されている。Covariantは、産業用ロボットサプライヤーであるABBなどと提携し、動的環境で人間と一緒に働けるインテリジェントロボットの開発を進めている。
4. 1X(https://www.1x.tech/)
1Xは、2014年にノルウェーで設立されたスタートアップ企業で、AIを搭載した自律型ヒューマノイドロボットを2種類開発している。EVEと呼ばれるロボットは、物流、小売、セキュリティ分野向けの車輪付きアンドロイドで、NEOというロボットは、家庭内の家事支援や高齢者ケア向けの二足歩行のヒューマノイドロボットである。1XはOpenAIと提携してロボットの知能を向上させるだけでなく、有機的な筋肉の動きを模倣するモーター「Revo1」を搭載することで、人間に似た動きを実現している。1Xは、2024年には1億ドル(約145億円)を新たに調達しており、スウェーデンのベンチャーキャピタルファンドEQT Ventures、OpenAI Startup Fund 、Tiger Globalが支援している。
5. Apptronik(https://apptronik.com/ )
Apptronikは、テキサス大学オースティン校のHuman Centered Robotics Laboratoryからスピンアウトしたロボティクス企業で、2023年8月に商用ヒューマノイドロボット「Apollo」を発表している。このロボットは、全高約173cmで人間に近い体格と機能を持ち、約25kgを持ち上げる能力がある。Apolloはバッテリーで4時間稼働し、必要に応じてコンセントに繋げることで連続稼働も可能である。また、独自の力制御アーキテクチャにより、人間の周囲で安全に作業できるだけでなく、フレンドリーなインタラクションを重視し、目、口、胸の部分にあるLEDで状態を伝えることができる。Apptronikは、Apolloの商用利用に向けてNASAと協力している。さらにMercedes-BenzではApolloを自動車工場で試験運用しており、部品運搬や確認など、体力を要する単調な繰り返し作業をロボットに任せようとしている。
ロボットという言葉は、チェコ語のrobota(強制労働)に由来しており、1920年にKarel Čapekという作家が「R.U.R」というSF戯曲の中で初めて使った造語です。このR.U.Rという作品は、人間と機械の関係、労働の意味、感情と意識の本質といったテーマを探求しており、技術の進歩が人間社会に与える影響や、人間の創造物が逆に人間を支配するというディストピア的な描写もあります。
ロボットという言葉が生まれてから、100年程度しか経っていないということは、人間はロボットとの付き合い方についてまだ深く理解できていないことを意味すると思います。そのため、西洋ではロボットを「人間に反逆する存在」と捉える傾向が高いです。しかし、日本には「ドラえもん」、「鉄腕アトム」、「Dr.スランプ」など、ロボットと人間の交流を描いたアニメやマンガが多く、日本人は、ロボットに対して親近感を持って育ってきました。ロボットとの共生や信頼の構築に関わるロボット観は、汎用ロボットが人間の働く現場に導入される中で、一つの強みになるかもしれません。
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