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Issue 184 - リオネル・メッシがストリーミング市場に与える影響

  • Webrain Production Team
  • Jun 25, 2023
  • 4 min read

Updated: Feb 10

Webrainでは、この5月に「The State of FAST and vMVPD」というタイトルで、米国のストリーミング市場の動向、特にFASTとvMVPDについてまとめました。今回のSeattle Watchでは、その後の定点観測として最近発表された動画ストリーミング市場の主要な動きについてご紹介します。

最近の動画ストリーミング市場では、複数のサービス同士の統合や、ドラマや映画といったコンテンツへの投資が盛んに行われていますが、最も興味深い動きを見せているのは、スポーツコンテンツの分野です。世界最高峰のサッカー選手であるリオネル・メッシが率いるアルゼンチンは、2022年のカタールW杯で36年ぶりの優勝を果たしました。その半年後、メッシはサウジアラビアのプロチームであるアル・ヒラルへの年俸5億ユーロ(約750億円)という巨額のオファーを断って、アメリカのMLS(メージャーリーグサッカー)に所属するインテル・マイアミに入団することが決まり、スポーツ界に衝撃を与えています。


なぜ、MLSのサッカーチームが、ヨーロッパやサウジアラビアのエリートリーグから、偉大なサッカー選手の一人を引き抜くことができたのでしょうか?また、なぜこの話題を動画ストリーミングに関するニュースレターで紹介しているのでしょうか?それは、この出来事の背景にはApple TVが大きく関わっているからです。


2022年6月にApple TVは、Warner Bros. Discovery、Paramount、Amazonといった大手ストリーミング企業を抑えて、MLSと年間2億5000万ドルの10年契約に合意しています。この契約によって、2023年シーズンのMLSの全試合はApple TVを通じてのみライブストリーミングで視聴可能となっています。 https://sportsnaut.com/apple-tv-wins-exclusive-rights-to-mls/


興味深いことに、インテル・マイアミはメッシとの契約条件として、Apple TVのMLS Season Pass(MLSの全試合を視聴可能なサブスクサービス)の収益の一部をメッシに約束しているとESPNが報道しています。メッシは、自分の決断がお金だけに突き動かされたわけではないと述べていますが、この契約による彼の収入は、年俸750億円というオファーを見送るのに十分な金額になると考えられます。 https://www.businessinsider.in/sports/news/the-mls-could-be-giving-lionel-messi-a-cut-of-its-mega-2-5-billion-broadcast-deal-with-apple-to-lure-him-to-america/articleshow/100852294.cms


今回の「The State of FAST and vMVPD」というタイトルのレポートでも述べているように、動画ストリーミング市場では、毎日のように各社から発表があります。例えば、Netflixはアジア太平洋地域のオリジナルコンテンツに19億ドル以上を投入すると発表しており、シンガポールの調査会社では、Netflixの収益は新しく始めた広告付きプランによる広告収入の成長によって強化されると予測しています。さらに、最近のパスワード共有防止策で5月26日と27日の2日間で10万人の新規ユーザを獲得したというCNNの報道もあります。地域別に見てみると、ユーザー1人当たりの収益が高い日本と韓国では堅調な成長を示し、コンテンツ別に見ると、韓国のドラマや映画、日本のアニメ、そしてインドネシアやインドの映画が、2022年に世界全体の人気上位のタイトルにランクインしています。Netflixにとって、アジア太平洋地域の総収益の4分の1以上を占める日本市場は重要であり、アニメ以外のコンテンツでも影響力を伸ばそうとしています。 https://variety.com/2023/tv/news/netflix-content-spending-asia-pacific-1235543665/


さらに、先月の5月23日には、Warner Bros. Discovery(WBD)がHBO MaxとDiscovery+という2つのストリーミングサービスをMaxという単一のサービスに統合したことで、NetflixとDisney+に次ぐストリーミングサービスが誕生しています。Maxは従来のHBO Maxに取って代わるもので、昨年第4四半期の段階での加入者数は9,600万人を超え、米国のユーザーは5,460万人で国内シェアの14%に相当しています。この新しいMaxが今後どれくらい新規ユーザーを獲得できるかはまだ分かりませんが、継続的なレイオフが続くWBDにおいて同社は収益力の強化を重視しており、RokuとTubiという競合サービスへの自社コンテンツのライセンス供与を行うことで利益を得るとともに、自社ブランドの浸透を目指しています。 https://www.theverge.com/2023/4/12/23677909/hbo-discovery-combined-max-streaming-service-price-availability


大手サービスの統合はこのWBDに留まりません。現在、DisneyはHuluの66%の株式を所有していますが、Comcastが所有する残りの33%を買収しようとしており、年内にはそれが行われると報道されています。ただし、HuluとDisney+(ESPN+を加える可能性もある)をMaxのように統合するのか、それとも別々のサービスとして提供し続けるのかは明らかになっていません。その裏で、Disneyはアジアでは熟練したコンテンツクリエイターの確保が課題として、映像プロデューサーなどの育成に力を入れています。 https://www.engadget.com/disney-and-hulu-will-merge-into-a-single-app-later-this-year-083536664.html


このように変化の激しい動画ストリーミング市場では、今後も毎日のようにさまざまな報道が出ることが予想されます。今後もこの市場の動向についてより深く知りたい方は、弊社までお問い合わせください。また、ストリーミング市場とは関係のない企業の方でも、消費者の行動変容や嗜好・価値観の変化を追いかけるという意味で、数百万人単位でユーザーを集めるこの市場の動きには注目しておくべきだと思います。



 
 
 

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