カタールで開催されているFIFAワールドカップが大きな盛り上がりを見せています。日本代表も、悲願のベスト8進出はかないませんでしたが、グループリーグでドイツとスペインを相手に歴史的な勝利を収めています。そこで今回のSeattle Watchでは、スポーツに関連するテクノロジーについて紹介していきます。
スポーツの世界では古くからテクノロジーが活用されており、1881年に競馬における勝ち馬の判定に写真を用いたのが、スポーツにおける最初のテクノロジーだと言われています。今回のW杯でも、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)と呼ばれるテクノロジーが導入されています。VARはボール内部のIMUセンサー(KINEXON製のコネクテッドボール)と複数のトラッキングカメラ(SONY製のホークアイ)から構成されており、審判のオフサイド判定をサポートしたり、ボールがラインを割ったかどうかを1ミリ以下の精度で測定しています。 https://www.fifa.com/fifaplus/ja/articles/semi-automated-offside-technology-to-be-used-at-fifa-world-cup-2022-tm-ja
このようにスポーツテクノロジーは、競技における計測や判定、また選手のトレーニングを向上させるために活用されていますが、スポーツファンのエンゲージメントや体験を高めて、スポーツコンテンツの消費を促すためにもテクノロジーが活用されるようになってきています。Webrainでは、「Sports Technology: The Data-enabled Fan Experience」という最近のレポートで、データを活用することでファン体験の向上を実現するテクノロジーをいくつかのカテゴリーに分けて紹介しています。(レポートのサマリーはこちら)
その中から今回はいくつか抜粋して紹介していきたいと思います。1つ目は、ドイツ企業のASBが開発したLED内蔵のスマートフローリングのLumiFlexです。これは、バスケットボールやバトミントンなどの屋内競技で使われている木製の床に代わる特殊グラスで作られた床で、床全体が多機能モニターとして機能します。会場のファンは、リアルタイムでコートの床に映し出される選手の統計やボールが跳ねて描き出すユニークなグラフィックを見ることができ、今までにない視覚体験を生み出すことができます。また、企業のロゴやディスプレイ広告を映すことも可能なため、広告媒体としても活用できます。さらに、高い衝撃吸収性と弾性を持っているため、選手の関節への負担が軽減されるメリットもあります。 https://www.asbglassfloor.com/?lang=en
ファンの体験は会場だけではありません。テレビやスマホで試合を観戦するファンとの接点や、試合が行われていない時のファンとの接点など、オンライン上でのエンゲージメント向上も重要になります。そこで2つ目に紹介するのは、Socios.comが提供するファントークンの仕組みです。ファントークンとは、スポーツクラブなどが発行するブロックチェーン技術を用いた暗号資産のことです。Socios.comと提携しているFCバルセロナでは、$BARというファントークンを発行しています。このトークンを保有するファンは、選手更衣室のデザインや試合で使われる音楽を決めるための投票などに参加する権利や、試合前の交流会やVIP試合観戦などの特典を獲得できます。FCバルセロナでは、ファントークンを通じて、ファンにチームを身近に感じてもらい、チームへの愛着を高めることを目指しています。 https://www.fantoken.com/bar/
3つ目はオンラインでのスポーツベッティングです。米国では2018年以降、多くの州でスポーツベッティングが合法化されて市場が急拡大しており、DraftKingsやFanDuelといった企業が市場を牽引しています。スポーツベッティングには、スポーツブック(スポーツの試合の勝敗結果に賭けて賞金を獲得)やファンタジースポーツがあります。ファンタジースポーツは、現実のプロチームに実在する好きな選手を集めて空想のチームを作るシミュレーションゲームで、コンテストで上位の成績を残せば賞金を手に入れることができます。ゲーム内での選手達の成績は、選んだ選手の実際の成績に連動しています。まだ未成熟の市場でギャンブリング中毒のリスクなどの懸念はあるものの、2021年のNFLシーズンには、4,500万人の米国人が120億ドルもの金額をスポーツベッティングにつぎ込んだと言われており、注目が高まっています。 https://www.youtube.com/watch?v=DMIbfurPE1I
スポーツの面白さは試合そのものだけではありません。試合前や試合後、そして試合が行われていない時にも、ファンとの設定を構築する接点は多く存在しており、ファンの感情の流れをスペクテーター・ジャーニー(≒カスタマー・ジャーニー)として分析する視点が重要になってきます。スポーツの世界は、皆さんのビジネスからは少し遠い領域のように感じられるかもしれません。しかし、この業界がテクノロジーを使ってファンの観戦体験(≒顧客体験)を高めようとしている点からは多くのことが学べるのではないでしょうか?
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