リ・コマース(Re-commerce)やリバース・コマース(Reverse-commerce)と呼ばれる動きが、ここ数年アパレル市場で特に加速しています。リ・コマースとは、いわゆる中古品をオンライン中心に取引するビジネスモデルのことで、それ自体は決して新しい概念ではありません。今回のSeattle Watchでは、なぜリ・コマースの人気が今高まっているのかとその市場を代表するプレーヤーについて紹介していきます。
アパレル産業における大量生産・大量消費の構造が多くの環境問題を引き起こす中で、こうした仕組みを根本から見直すべきだという意識が特にミレニアル世代やZ世代の中で高まっています。彼らは、地球環境へのコミットメントを掲げる企業のビジョンや価値観に共感し、従来型の小売ではなく、リ・コマースを積極的に選択するようになっています。実際、中古アパレルECマーケットのThredUpによると、中古のアパレル品市場は2020年時点で280億ドルのビジネスになっており、2024年までに2倍以上の640億ドルに拡大すると予測されています。 https://www.cnbc.com/2020/06/23/thredup-resale-market-expected-to-be-valued-at-64-billion-in-5-years.html
リ・コマースには、価格に敏感な若い世代の価値観も関連しています。中古のブランド品の委託販売を行うThe RealRealの女性部門の責任者であるSasha Skod氏は、「商品購入前に、その商品のデザイナーやアイテムの再販価値を知りたいという消費者が増加している。」と述べています。これは、購入した商品を委託販売して、購入金額の多くを取り戻すつもりで商品を買うという投資的な購買行動と理解されています。 https://www.ecommercetimes.com/story/Recommerce-The-New-Art-of-Secondhand-Sales-86439.html
さらに興味深いことに、若い世代の消費者が牽引しているリ・コマースの動きは、親世代のX世代や祖父母世代のベビーブーマー世代にも影響を与えています。小売業界専門の調査会社のFirst Insightとペンシルベニア大学ウォートン校のBaker Retailing Centerが実施した調査では、2019年と2021年を比べると二次流通市場での衣類購入が全体で30%増えたと報告しています。さらに、ベビーブーマー世代では、2019年にリ・コマースで購入した人は52%であったが、2021年には81%に急増したと述べています。 https://www.firstinsight.com/press-releases/retailers-in-the-dark-on-consumers-sustainability-sentiment-first-insights-new-report-finds
アパレルのリ・コマースの市場には様々なプレーヤーが登場しています。例えばthredUPでは、ユーザーは要らなくなった洋服を袋に入れて郵送するだけで、洋服の査定、写真の撮影、販売サイトへの掲載などの一連の作業を全て行ってくれます。同社は洋服の状態や価格の査定に、Vue.aiと呼ばれるAI画像処理システムを利用しており先進的です。また、Poshmarkと呼ばれるファッション専門のフリマアプリでは、ユーザーは商品の写真と説明文を加えるだけで簡単に出品できます。Poshmarkには、ユーザー間で直接価格の交渉などが行えるコメント機能があり、ユーザーコミュニティーの形成にも力を入れています。
また、大手ブランド企業もパートナー企業と協働してリ・コマースを加速させる事例も増えてきています。例えば、アウトドア用品およびアパレルのブランドであるThe North Faceでは、クリーニングのプロバイダーであるTersusとソフトウェア企業のArchiveとロジスティクスと提携して、リ・コマースの拡大を目指しています。Tersusは、リセールで販売される中古品のクリーニング、修復、分類を担当し、売り物として使えないアイテムは布地の再生サービスに回されてリサイクルされます。Archiveは、The North Faceのオンラインビジネスのフロントエンドを担当し、顧客から返却された商品をリセールのウェブサイトに組み入れています。同社の他にも、アウトドアブランドのREIやPatagoniaなどの同業他社も独自のリセールプログラムを展開しています。 https://www.modernretail.co/retailers/why-the-north-face-is-relaunching-its-renewed-resale-business/
今回は、アパレル市場のリ・コマースについて見ていきましたが、その背景にあるサーキュラーエコノミーの考え方は様々な市場や産業に広がりを見せています。例えば、電子デバイスの市場では、修理する権利(Right to Repair)を定める法案が欧米で制定され、消費者自身が製品を修理してより長く使用することで、電子廃棄物(e-Waste)を減らす動きが進んでいます。環境問題はリスクと捉えられがちですが、それに伴う消費者の価値観とニーズの変容に着目することができれば、新しいビジネスの機会を掴むことができるかもしれません。
<アパレル市場におけるリ・コマースのプレーヤー>
thredUPは、カリフォルニアを拠点としてオンラインで古着の委託販売を行うスタートアップである。同社はいらなくなった衣服の廃棄や新しい衣服の製造で発生するCO2を削減することをコンセプトとしており、2009年の設立以来、45万トン以上のCO2の削減に貢献している。thredUPは、Resale-as-a-Service(RaaS)と呼ばれるモデルで、古着をユーザーから効率的に回収してリセールできる仕組みをブランド企業に提供している。また、ブランド企業にデータを共有することでマーケティング支援も手掛けることで、リセールの手間を削減している。古着の状態や価格はVue.aiというAI画像処理システムを利用して決定している。
Poshmarkはファッションに特化したフリマアプリで、衣服だけでなく、化粧品、ペット用品、インテリアなどの商品が販売されている。ユーザーは自分のクローゼットの中にあるものを販売することができ、自分のオリジナルのファッションブランドを作ることもできる。同社のアプリでは、販売する商品の写真と説明文を載せるだけで簡単に出品することができる。Poshmarkでは、ユーザー間のコミュニティー構築に注力することでアクティブユーザー数を増やしている。例えば、Posh Partiesと呼ばれる特定のテーマを設けたイベントをバーチャル上で定期開催することで、同じテーマに興味をもつ人を集めてコミュニティーを活性化させている。
Troveは、ブランド企業がリセール事業を行うためのプラットフォームを提供するホワイトレーベル企業である。これまで、Patagonia、REI、Levi’s、Nordstromなどの有名なブランド企業を支援している。消費者は、Troveと提携するブランド企業の店舗に衣服やギアを持ち込んで売却し、その報酬としてユーザーは現金やクレジットを獲得する。売却された商品は、Troveの倉庫に送られて、商品の状態のチェックと査定が行われ、必要に応じてクリーニングや修理・修繕が行われる。その後、写真の撮影と値付けが行われた商品は、リセールサイトに掲載されて販売される。同社は、このビジネスモデルをCircular Shopping(循環型ショッピング)と呼んでいる。
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