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  • Roger Yee

Issue 151 - バイデン政権による大型財政出動とその影響

今回のSeattle Watchでは、米国バイデン政権による大型財政出動とビジネスへの影響について考察していきます。ロシアによるウクライナ侵攻と資源の高騰は新たな不安要素になっていますが、バイデン政権による巨大な財政投資による景気刺激策は、コロナ後のアメリカをリカバリーさせる大きな起爆剤になるかもしれません。

 

新型コロナウィルスによるパンデミックの発生から間もなく、米国政府は様々な景気刺激策を策定しており、その一部は日本のニュースでも取り上げられました。これらのコロナ関連の対策支出は、トランプ元大統領とバイデン現大統領の2人の大統領とそれぞれの政党にまたがって実施されていますが、米国議会は4.5兆ドルを承認し、そのうち4兆ドルは連邦機関がその使い道を策定し、3.5兆ドルは既に米国経済に投入されています。しかし、残りの5,000億ドルはまだ明確な用途が策定されていません。また教育分野に割り当てられた2,630億ドルのうち、まだ600億ドルしか使われておらず、約2,030億ドルが2025年までに使用可能な予算として残されています。ヘルスケア分野に割り当てられた3,030億ドルでも、1,110億ドルが今後数年間で使用可能な予算として残っています。 https://www.cnbc.com/2021/12/09/covid-relief-bills-us-has-spent-most-of-coronavirus-aid-money.html


また、2021年夏にバイデン大統領は公約に沿ったインフラ投資計画として3. 5兆ドルの予算案を提案しました。この計画は1.2兆ドルに縮小されたものの、昨年11月にバイデン氏によって署名されて法案が成立しました。この1.2兆ドルは、さまざまなインフラ関連への投資に使われる予定で、そのうち5,500億ドルは道路や橋、鉄道などの輸送関連のほか高速インターネット網の整備などに充てられます。(具体的には、道路や橋などの整備に1,100億ドル、貨物鉄道と旅客鉄道の整備に660億ドル、その他公共交通機関の整備には390億ドル、高速インターネット網の拡大に650億ドル、さらに水道システムの整備550億ドルが投入される予定。)これらの予算は今後5年間に渡って使用されるため、このSeattle Watchが発行される時点では、まだ多くのプロジェクトが始まっていません。


またバイデン氏のインフラ投資計画の中から当初は承認されませんでしたが、その後さらに約2兆ドルについては、1兆7,500億ドルへとやや縮小される形になりましたが、気候変動への対策、医療保険の適用拡大、子どもの貧困の撲滅、手頃な価格での住宅提供などに充てる方向にシフトして提案されています。これらの財源はいくつかの税制改正によって賄われ、バイデン大統領はこれを「Build Back Better Act」(よりよき再建法)と呼んでいます。この計画は昨年11月19日に下院で可決されましたが、上院ではいまだに可決されておらず、障壁にぶつかっています。


この気候変動・社会保障関連歳出法案に反対している民主党のジョー・マンチン上院議員は、「これらの新しいプログラムはすべてに対して恒久的で十分な資金が必要である」と主張しており、米連邦政府債務が史上初めて30兆ドルに達したことを受けて、「Build Back Better Act」に充てる新たな財源はないと語っています。しかし同氏は継続した議論には前向きであることを示し、バイデン大統領はエネルギーと気候に関する部分が5,000億ドル以上の小規模パッケージとして将来的に支持を得て可決されることを期待しています。


バイデン政権によるこれらの大型財政出動は、市場介入を積極的に進める大きな政府への転換を顕著に表すものであり、1930年代に世界恐慌からの回復を目指してフランクリン・ルーズベルト大統領が行ったニューディール政策を彷彿とさせます。そのゴールは新たな雇用を生み出すことであり、コロナウィルスで停滞した目先の景気回復以上に、米国経済の生産性や競争力を中長期に高めることにあると思われます。


例えば、インフラの劣化による経済損失は計り知れず、アメリカ自動車協会によると車社会の米国に欠かせない道路のくぼみによる損傷だけでも年間30億ドルの経済損失が起きていると述べています。昨年のサプライチェーンの混乱も、米国の貧弱な港湾や道路が原因の一つとも言われています。また交通・輸送インフラ投資の規模を見ると、2019年のデータで中国はGDP比5.6%を投資していましたが、米国は0.6%に留まっています。つまり、最新のインフラを着々と導入して競争力を高める中国に経済覇権を奪われるといった焦りもインフラ投資策を促したと考えられています。そしてこの巨額な財政出動は、米国市場で活躍する日本企業にとっても大きなビジネスチャンスになる可能性を秘めているのではないでしょうか。


このような巨大な財政投資による景気刺激策から分かるように、歴史的に大きな政府を志向する民主党は、社会主義的志向を強めていると言えます。同時に、バイデン大統領は自らを誇りある資本主義者(Proud Capitalist)と呼び、市場での公正な競争を促そうとしていることも確かです。しかしその足元では社会の分断と激しいインフレが進み、ウクライナ情勢で不透明感が増す中で、彼が目指す「新しい資本主義」は果たして、よりよき再建へと導いてくれるのでしょうか?日本の岸田政権も「新しい資本主義」を掲げて成長と分配の好循環を通じた持続的な経済をつくると主張していますが、指針の具体化には未だに至っていません。バイデン政権の方針が正しいかどうかは歴史が判断することとしても、中長期の視野で未来を見据えて財政リスクを背負ってでも国の経済の繁栄をつかみ取ろうとする貪欲な姿勢は、米国から学べることかもしれません。





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