• David Peterman

Issue 150 - 私たちのモバイルライフを支えるバッテリー技術

今回のSeattle Watchでは、これまでに様々な技術革新が起きている中で意外とゆっくりとした革新で進んできたバッテリー技術に注目してみました。EV(電気自動車)の普及に伴い、ますます需要が高まっているバッテリー技術を巡り、多くの国や企業がその覇権をめぐる戦いを繰り広げています。

 

電池は、私たちが使用するデジタル機器を支える縁の下の力持ちだと考えたことがあるでしょうか?電池がなければ、デジタル機器は常にコンセントにつなぐ必要があり、移動先で会話をしたり屋外で撮影をしたり当たり前となっている便利さも享受できません。電池は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する機能をもち、放電と充電を何年にもわたって繰り返すことで、私たちのデジタル機器のモビリティを実現しています。

https://www.science.org.au/curious/technology-future/batteries


しかし、他の多くのテクノロジーが急速に進歩する中で、実は電池の技術革新は遅れていたのです。技術誌には、電池性能の向上、小型化、長寿命化などの技術革新を伝える記事が頻繁に掲載されていますが、現実には、市販の電池製品の進歩は比較的遅いペースにとどまっています。少し古いですがTechnology Review誌の記事によると、過去10年の間に数えきれないほどの画期的な技術が発表されてきたが、実用化にまでに至らないことが多いと伝えており、例えば新しい電極を導入するなど電池の一部を変更するだけでも、予期せぬ問題が発生することがあり、何が問題なのかを十分に把握するまでに材料化学から物理の問題まで、何年ものテストが必要になることもあると話しています。また、電池の不具合は火災や爆発を引き起こす可能性があるため、安全性の確保も大きな課題となっています。 https://www.technologyreview.com/2015/02/10/249342/why-we-dont-have-battery-breakthroughs/


電池が注目される分野の一つに電気自動車(EV)があり、航続距離の延長と充電時間の短縮が求められています。2012年、テスラのModel Sは航続距離265マイル(約426 km)でしたが、現在では412マイル(約663 km)に達しています。この147マイル(約237 km)の改善は消費者に喜んで受け入れられたものの、10年で年間4.5%の改善率にしか至っていません。さらに、この航続距離の改善は、バッテリーの改善によるものだけではありません。テスラは航続距離を伸ばすために、車体やソフトウェアなどにも継続的な調整を加えることで、ようやくこの数字を達成しているのです。 https://insideevs.com/news/504086/tesla-range-improvements-a-priority

https://www.technologyreview.com/2015/02/10/249342/why-we-dont-have-battery-breakthroughs/


しかし、バッテリーに対するこれまでの期待がようやく現実味を帯びてきたように感じます。Our Next Energy (ONE)社は、テスラ車に自社開発の新しいバッテリーパックを搭載し、752マイル(約1210 km)という驚異的な航続距離を達成したと報告しています。また今年のCESでは、HyperX社が従来比900%増の300時間という圧倒的なバッテリー持続時間を誇るゲーミングヘッドフォンのCloud Alpha Wirelessを発表しています。 https://www.caranddriver.com/news/a38668912/750-mile-ev-battery-michigan-startup-our-next-energy

https://www.wired.com/story/ultra-long-battery-life-coming-eventually/


前述したこれまでの開発の歴史を踏まえると、これらの新しい電池技術に期待し過ぎてもいけないと思いつつも、QuantumScape社のようなスタートアップ企業が、ビル・ゲイツの支援を受けながらこれまでの液体電解質を固体媒体に置き換えて、より小型で安全、かつ高性能な電池を開発し、その企業価値が110億ドルまで高まっていることは期待が現実になりつつある証拠なのかもしれません。 https://cleantechnica.com/2022/01/17/the-solid-state-energy-storage-dam-is-about-to-bust-wide-open/


このような全個体リチウムイオン電池は非常に魅力的で、日本、中国、アメリカ、ヨーロッパ各国などの多くの国が競い合っています。ご存じのように日本はこの分野では技術的にも特許の数でも一歩リードしており、官民一体となって前に進んでいます。米国でも、「リチウムイオン電池に関する国家計画2021-2030」、「Battery500コンソーシアム」、エネルギー省の高等研究計画局(ARPA-E)による一連の助成金の提供など、その覇権をめぐって政府が強力なバックアップを行っています。 https://www.greencarcongress.com/2021/06/20210609-fcab.html

https://www.greencarcongress.com/2021/12/20211210-b500.html

https://arpa-e.energy.gov/news-and-media/press-releases/department-energy-announces-16-new-projects-transform-energy-storage


この流れは、EV事業を加速させたい自動車メーカーにとっては好機であり、フォルクスワーゲンでは、2015年から前述した全固体電池を開発するQuantumScape社と協業しています。一方、テキサス大学材料研究所の研究者は、現代の電池に含まれるリチウムとコバルトを、環境への負荷が大幅に減らせるナトリウムと硫黄に置き換える方法を探っています。さらにEnovix社は、電池内の空間をより効率的に利用できるとされる3Dシリコン電池のアーキテクチャに取り組んでいます。 https://news.utexas.edu/2021/12/06/battery-dream-technology-a-step-closer-to-reality-with-new-discovery/


私たちは、スマホやノートパソコンに不具合が出るまで、電池が重要な役割を担っていることを意識することなく日常生活を送りがちです。しかし、研究者のみなさんの日進月歩の努力のおかげで、私たちはバッテリー技術に下支えされたモバイルライフを送れていることを忘れてはいけないと思います。

 

<バッテリー技術を支えるスタートアップ企業>

Our Next Energy (ONE) (https://one.ai/)

2022年1月、Our Next Energy(ONE)は、自社開発のバッテリー「Geminin 001」を搭載したテスラ車が充電なしで752マイル(約1210 km)の航続距離を達成したと発表している。さらに、同社は配送トラックやバスに特化したバッテリーパック「Aries」を開発している。Our Next Energyは、ジェフ・ベゾスやビル・ゲイツを中心とする投資グループの支援を受け、直近では2500万ドルの資金調達を行っており、デトロイト近郊に新本社を建設する予定である。

QuantumScape (https://www.quantumscape.com/)

QuantumScapeは、現在市販されている他の電池よりも効率的で費用対効果の高い、全固体リチウムイオン電池を開発している。固体構造によりエネルギー密度が向上し、高速充電と長寿命化が可能になる。QuantumScapeは2010年に設立された上場企業である。同社はフォルクスワーゲンとの合弁会社において2024年に全固体電池の生産を始める計画である。

Enovix (https://www.enovix.com/)

Enovix社は、従来の電池よりも高容量な二次電池パックの製造方法を開発している。その結果、より費用対効果の高い大量生産プロセスを実現している。現在、カリフォルニア州フリーモントに先進的なシリコンアノードリチウムイオン電池の生産施設を建設中で、2022年には生産と顧客への納入が開始される予定である。








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