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  • Hideya Tanaka

Issue 147 - メタバースの未来(後編)

いつもSeattle Watchをお読みいただきありがとうございます。今回のSeattle Watchが今年最後の発行となります。昨年に引き続いて、海外との往来が制限された一年となってしまいましたが、来年こそは、シアトルで直接皆さまとお会いできることを切に願っております。今回は「メタバースの未来(後編)」というテーマで、メタバースの今後の展望や懸念について考察していきたいと思います。

 

メタバースの世界には2つの大きな方向性があると言われています。1つは、「オープン・メタバース」で、複数のプラットフォーム間で同じアバターを用いながら情報やアセットの持ち運びができるような非中央集権型の世界です。これは、単一の企業や組織がコントロールをすることなく、参加者全員がその貢献度に応じた扱いを受けることができるため、インターネット本来の世界観に近いと言えます。


その一方で、このオープン・メタバースの対抗軸として存在するのが、クローズド・メタバースと呼ばれる単一または複数の組織や団体が維持管理を行うメタバースです。Meta社(Facebookが社名を変更)やオンラインゲームプラットフォームRoblox社は、安定性や収益性の観点などから、クローズド・メタバースを志向する動きをしていると指摘されています。


現在のインターネットがスタンダード化されたプロトコルやオープンAPIによって大きく普及したことを踏まえると、メタバース全体の市場を成長させるには、よりオープン性が重視されるすべきですが、クローズなエコシステムを志向する企業が増えると、独立したメタバース(マイクロバース)が分立するだけに終わってしまうかもしれません。


Pokémon GOの開発で有名なARテクノロジー企業のNianticのCEOであるJohn Hanke氏は、VRヘッドセットが支配するメタバースをディストピアの悪夢と呼んでおり、代替案となる世界観を提案しています。それは、仮想世界ではなくリアルな世界で人々を直接結びつけるメタバースです。同社の既存のゲームは、屋外での活動や新しい人との出会いを重視しており、バーチャルな世界とフィジカルな世界がつながるときに人々は最も幸せな状態になれると話しています。


また、起業家のピーター・ディアマンディス氏は、著書「2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ」の中で、ビデオゲームの中毒性について述べています。同氏は、リスク、報酬、目新しさが詰まったビデオゲームは、ジョイスティックの形をしたドーパミン注入装置であると主張し、バーチャル環境の没入感をもたらすVRほど中毒性が強いものはないと述べています。


今後もメタバースの話題はしばらく続きそうですが、よりオープンなメタバースに向かっていくのか、それともクローズドな形に落ち着くのか?またリアルとバーチャルをつなぎ「人間」を中心とした世界に向かっていくのか?そのような視点で、これからのメタバースの動向を見ていくと面白いのではないかと思っています。

 

<メタバースに参入している企業>

NFT(非代替性トークン)を用いたゲームプラットフォームを提供するThe Sandboxは、主要なオープンメタバースの1つになることを目指している。同社のゲームでは、NFTである土地(LAND)を所有して、そのLANDの上でゲームやジオラマなどをつくることができる。また自作したアイデムのすべてをNFTマーケットプレイスで販売することができる。今年の11月には、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2などから9,300万ドルを調達しており、今後はファッションや建築、バーチャルコンサートなどのクリエイター経済の構築を支援していくという。

Somnium Spaceは、大規模かつ多人数で参加できるVR空間を目指して開発されているアプリである。NFT(非代替トークン)が実装され、プレイヤーは所有する土地に学校や映画館、公園などを好きなように構築・建設することが可能になっている。このゲーム内では定期的にボーリング大会やカンファレンス、ミュージシャンのライブパフォーマンスなどのイベントが開催されており、プレイヤーは土地やアバター、服などをトークン化してマネタイズすることもできる。

Nianticは、仮想世界に入るのではなく、現実世界で人々を直接結びつけるメタバースを目指しており、現実世界のメタバースと呼ぶAR開発者向けプラットフォームであるLightshipとARアプリ開発キットのARDKの提供を発表している。Lightshipは、Pokémon GoやPikmin Bloomなど同社のゲーム基盤となるもので、ARDKの開発キットを様々なクリエイターに無料で提供することで、AR体験をより簡単に構築できるように支援するという。





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