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  • Hideya Tanaka

Issue 146 - メタバースの未来(前編)

最近「メタバース」という言葉が注目されていますが、今一つ何が起きようとしているのか掴めていない方も多いのではないかと思います。そこで、今回と次回のSeattle Watchでは、メタバースの全体像や、今後の展望について考察していきたいと思います。前編となる今回は、メタバースの全貌やエコシステムについて見ていきます。(今年のシアトルウォッチの発行もこの2回を残すだけになってきました。過去のシアトルウォッチをご覧になりたい方はこちらからご覧になれます)

 

よく言われるように、メタバース(Metaverse)とは、高次の視点や立場を意味する「メタ(Meta)」と宇宙や世界を意味する「ユニバース(Universe)」の2つの言葉からなる造語で、インターネット上に作られた仮想空間のことです。この造語は、SF作家のニール・スティーヴンスン氏が1992年に発表した「スノウ・クラッシュ」という作品の中で使われたのが始まりで、2003年にLinden Lab社がリリースした「Second Life」が初期のメタバースと言われています。


当時Second Lifeに参加したユーザーは、アバターを作成し、仮想空間で友人とのコミュニケーションや買い物をして楽しんだり、デジタル上の不動産への投機に熱狂していました。2007年頃のピーク時には、100万人のユーザー数を誇っていましたが、技術的な問題やSNSの登場、またユーザー同士の金銭的なトラブルなどを背景に、やがて下火になっていきました。 https://forbesjapan.com/articles/detail/44255


ここで改めて、メタバースの定義についてもう少し詳しく見ていきたいと思います。様々な定義がありますが、今回はエンタメ系に特化したVCのMakers Fundでパートナーを務めるMatthew Ball氏の定義の抜粋を紹介したいと思います。 https://www.matthewball.vc/all/themetaverse

  • 永続性:メタバースは永遠的に持続し、リセットやポーズ、エンドは存在しない

  • 同期性とライブ性:事前にスケジュールされたイベント等はあるが、メタバースではリアルな世界と同様に誰でもリアルタイムにその世界で起こることをライブで体験できる

  • 存在感:同時接続ユーザー数に制限がなく、誰もがメタバースの一部となり、特定のイベントや場所、活動に一緒に、同時に参加できる

  • 経済性:個人や企業が他者に認められる価値を生み出して、その幅広い仕事に対して報酬を得られる

  • 拡張性:デジタルと物理的な世界、プライベートとパブリック、オープンとクローズのプラットフォーム両方にまたがる体験であること

  • 相互運用性:データやデジタル上のアイテムや資産、コンテンツを特定のプラットフォーム(例:Fortniteなどのゲーム)だけでなく、他のプラットフォームでも活用できる

  • 幅広いユーザーの貢献:メタバースは、個人やグループ、企業など、さまざまなユーザーによって提供されたコンテンツや体験によって構成される


最近になって、Meta(Facebookが社名を変更)などの大手テック企業が競ってメタバースへの参入を宣言しているのは、テクノロジーと人々の意識の変化のタイミングを掴み、メタバースに本格的に取り組む時期と捉えているからではないかと考えられます。例えば、5Gなどの通信技術の発展は、「同期性とライブ性」を、ARやVRなどのイマーシブテクノロジー(没入型技術)は「存在感」を可能にし、さらにブロックチェーン技術とNFT(非代替性トークン)の登場は、「経済性」や「相互運用性」を可能にします。また、新型コロナウィルスのパンデミックによって、日常生活や仕事上のコミュニケーションの多くがオンラインに移行したことや、eSportsなどの人気も、メタバースの加速を後押ししていると思います。


その結果として、メタバースはインターネットの次のインフラとも言われ始め、EMERGEN Research社が2021年11月に発表した報告書によると、2020年のメタバースの世界市場規模は約470億ドルで、2028年には約8,290億ドル(約95兆円)にまで成長すると予測されています。 https://www.emergenresearch.com/press-release/global-metaverse-market


ライブゲームサービスプラットフォームであるBeamableのCEO兼共同創設者であるJon Radoff氏は、メタバースのエコシステムを次の7つのレイヤーに分けて解説しています。(詳細の説明と各レイヤーに属するプレーヤーについては下記のリンクからご覧になれます。) https://medium.com/building-the-metaverse/market-map-of-the-metaverse-8ae0cde89696

  1. 体験(Experience):ゲームやeスポーツ、社会的体験、買い物、ライブ音楽などユーザーが実際に関与するもの

  2. 発見(Discovery):上記の体験が存在することを人々が知るための方法(アプリストア、アドネットワーク、キュレーションなど)

  3. クリエイター経済(Creator Economy):クリエイターがメタバースに向けてモノを作り、収益化するためのもの(デザインツール、アニメーションシステム、グラフィックツール、デジタル資産マーケットプレイスなど)

  4. 空間コンピューティング(Spatial Computing):オブジェクトを3D化して、それらとのインタラクションを可能にするソフトウェア(3Dエンジン、VRやAR、ジェスチャー認識、空間マッピングなど)

  5. 非中央集権(Decentralization):エコシステムの多くを、非許可で分散されたより民主的な構造に移行させるもの(エッジコンピューティング、マイクロサービス、ブロックチェーンなど)

  6. ヒューマン・インターフェース(Human Interface):メタバースにアクセスするためのハードウェア(モバイル機器、VRヘッドセット、ハプティクス、スマートグラスなど)

  7. インフラストラクチャー(Infrastructure):半導体、マテリアルサイエンス、クラウドコンピューティング、5Gや6Gなどの通信ネットワークを含む上位の6つのレイヤーの構築を可能にするもの

このように様々なレイヤーによってメタバースが構築されるわけですが、今後重要になってくるのは、一番上のレイヤーである体験(Experience)であるように感じます。まだ今の段階は、各レイヤーの要素技術が揃い始めているものの、その仮想空間上に多くの人々を惹きつけるキラーコンテンツとなるものを、多くの企業が模索している状態のように思えます。下記に、この体験(Experience)のレイヤーを狙っている代表的な企業を紹介しています。自分ならこれらの仮想空間上にどのような体験を構築するか、一度考えられてみてはいかがでしょうか?





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