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  • Toshi Akashi

Issue 133 - Flavor Tech: 風味と味覚のマリアージュ - Part 2

今回のシアトルウォッチでは、最新のレポート「Flavor Tech:風味と味覚のマリアージュ」に関連して、本編のレポートでは詳細に触れることができなかった風味に関するエピソードを紹介します。後編の今回は風味市場における発酵技術の台頭について紹介したいと思います。


 

前回はコカ・コーラのデジタル戦略を紹介しましたが、コーラと言えばダイエットコーラという商品も有名です。糖分のカロリーが肥満を招いているということでカロリーを抑えた代替甘味料が使われたのが始まりですが、この人工甘味料も長い歴史があり、最も古いサッカリンという物質は発がん性があることが指摘され最近ではほとんど使われなくなりました。それ以降はパルスイートという商品名で有名なアスパルテームや体内に消化吸収されないスクラロースという物質が開発されています。ダイエット・コークを始めとする多くのソフトドリンクにはこのアスパルテームが甘味料として添加されています。


今回のレポートで紹介したのは、これらの人工甘味料ではなく植物由来のステビアという甘味料です。コカ・コーラではステビアを甘味料として使用した商品を緑のラベルのコカ・コーラ・ライフという商品名で2013年から販売していましたが販売実績が上がらず2020年に生産中止が決まりました。このステビアの問題点は原料が植物であるため人工甘味料のように大量生産が出来ない点にあります。そこで食品を扱うスイスのEvolvaというバイオ化学企業では、穀物メジャーのカーギルと共同で発酵技術を使ってステビアの生産をよりオーガニックでしかも安定供給を可能にする次世代甘味料EverSweetを開発し2018年に発表しています。


またフレーバーについてもバイオ技術に注目が集まっています。食品のフレーバーではバニラが有名です。お菓子作りなどでもバニラエッセンスは家庭でも使われますが、このエッセンスの原料はバニラビーンズという天然のラン科の植物です。しかし収穫した状態ではほとんど香りがないため、中に入った種を時間を掛けて発酵と乾燥を繰り返すことでバニラの香りが生まれるのです。バニラビーンズは需給がひっ迫すると銀と同じ値段で取引されることもあり、バニラビーンズの産地として有名なマダガスカル島では様々な業者が繰り返し行う乱獲によって自然破壊が起こり社会問題にまでなっています。


このような需要と供給のアンバランスを解決させるために、バイオ技術を持つ企業が最新の技術を使った発酵や熟成技術を開発することで、天然の原料を使って安定供給できるような仕組みを考案しています。例えば、オランダのバイオ技術企業のアイソバイオニクス(Isobionics)では、オレンジ風味に使われるバレンセンをビール酵母と同様の発酵技術を使って生成しています。通常バレンセンはオレンジやその皮から採取されますが、1個のオレンジから採取可能なバレンセンは0.04%と微量であるため、オレンジの収穫量が減るとバレンセンの値段が高騰することが良くありました。しかしこの発酵技術によって安定供給が可能になっています。


また特定の食品が食べられない人向けにバイオ技術が活用される例も増えてきています。日本のキューピーでは、投薬治療の影響などで納豆が食べられない人向けに、納豆を使わずにその味覚と風味を再現したごはん用の調味料を今年の2月に発売しています。ここでは発酵に関する風味のノウハウが新しい風味の創造に活かされています。


かつて甘味料、香料、さらに調味料などは全て人工的に代替製品が作られ大量生産されていましたが、健康志向の消費者のニーズからオーガニックで安定供給可能な添加物への期待が高まっており、最新のデジタル技術とバイオ技術の融合による革新的なイノベーションに大きな注目が集まっているのです。


 

<風味市場における発酵技術>

Evolvaは、食品、飲料、ヘルスケア製品向けに、持続的に生産可能な天然香料、甘味料、機能性成分を開発している。同社は最先端の発酵技術を用いて、レスベラトロール、サフラン、バニリン、ステビア、アガーウッド(伽羅)などの製品を開発しており、Cargillや高砂香料などのパートナーとの共同開発事業も展開している。

Supplantは、植物繊維を原料とした甘味料を開発して砂糖の代替商品を目指している。同製品はクッキーやビスケットなどを使用用途としており、植物繊維を原料としているため食物繊維由来の有益な特性を保持している。また、低カロリー、低血糖、プレバイオティクスな効果を持たすことが可能で、より効率的な農業生態系の構築に役立っている。

Isobionicsは独自の発酵技術を使って、食品、飲料、フレーバー、フレグランス市場向けにバレンセンやヌートカトンなどの柑橘系オイル成分を生産している。同社の生産プロセスは、再生可能な原料に基づいており、季節的な要因に左右されることもないため、高品質で安定した製品の供給が可能になる。同社は、2019年にドイツの総合化学メーカーのBASFに買収されている。

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