今回は、The New Normal - The Social Distancing Economyというレポートの1回目の紹介になります。コロナ禍における米国シアトルの今と、テレワークを続ける人たちのコラボレーションを支援する様々な技術について見ていきたいと思います。
テレワーク自体は新しいものではないですが、2020年初頭に世界を襲ったコロナウィルスの流行によって、多くの企業は、従業員の安全を守るためにテレワークを迅速に実施せざるを得ず、その結果、何百万人もの人がオフィスに通えず、自宅のキッチンテーブルの上でZoomを使ったビデオ会議やSlackでの同僚とのメッセージのやり取りをするようになったのです。
ここシアトルでも大きな変化がありました。11月に入ってワシントン州知事のJay Inslee氏は、州全体における感染の継続的な拡大に対抗するための新たな規則を発表し、夏の間に緩和されていた多くの規制が再び強化されたのです。例えば、レストランやバーでの屋内での食事が禁止され、小売店では収容率25%以下での営業が義務付けられています。さらに、ホリデーシーズンは旅行や大人数での集まりを控えるよう強く勧告されています。 https://www.king5.com/article/news/health/coronavirus/governor-jay-inslee-washington-state-new-restrictions-covid-19-coronavirus-spread/281-6aa36caa-8201-43ff-94de-127737049b8a
シアトルのサウスレイクユニオン地区は、5万5千人以上のAmazonの従業員や、FacebookやGoogleのような大手テック系企業がオフィスを構える全米でも指折りのエンジニアリングの中心地です。パンデミック前は、何千人もの従業員がオフィスビルを行き来し、オフィス近くのレストランやショップは並ぶほど賑わっていましたが、3月以降はほとんどの労働者がテレワークにシフトしたため、ゴーストタウンと化しています。Amazonではホワイトカラーの従業員について、2021年6月末までテレワークを続けると発表しています。多くの企業はこの変化に対応していますが、現代においてこの規模のパンデミックが起きたことがないことを踏まえると、今後の方向は大部分が未知の領域で、手探り状態であることは明らかでしょう。Computerworld誌では、コロナウィルスへの対応を「世界規模のテレワークの実験」と呼んでいます。 https://www.usatoday.com/story/money/2020/10/20/amazon-have-corporate-employees-work-home-through-june-2021/6000435002/
テレワークに対処するために必要な技術の多くがすでに存在していたという事を考えると、このパンデミックが2020年というタイミングで起きたのは幸運だったかもしれません。University of WashingtonのAlexis Hiniker准教授は、「もしこれが2002年に起こっていたら状況は全く違っていただろう。なぜなら人々が繋がるための環境が全く異なるからだ。」と述べています。これはまさにその通りで、2000年代初頭には米国の家庭の約40%がまだダイヤルアップ接続(電話網を使用したコンピューターネットワーク接続)に依存していましたが、今日では多くの人がZoomだけでなく、Spatialが提供するようなVRコラボレーションのようなツールが動作する帯域幅と処理能力を持つネットワークを使っています。 https://www.seattletimes.com/life/lifestyle/technologys-had-us-social-distancing-for-years-can-our-digital-lifeline-get-us-through-coronavirus-pandemic/
しかし、テレワークをサポートするためのテクノロジーが揃ってきているものの、同僚や顧客と物理的に離れていることによる問題は存在しています。この問題は、微妙な体の動きや顔の表情などの非言語的なシグナルを読み取れないというコミュニケーションの問題として表れています。リーダーシップに関して国際的な基調講演やコーチングを行っているCarol Kinsey Goman氏は、「我々の脳はこのような原始的で重要な情報チャネルを必要とし、このような内面のチャネルを遮断されると脳は混乱してコミュニケーションに支障をきたす。」と述べています。 https://www.hrreporter.com/news/hr-news/nothing-beats-face-to-face-guest-commentary/311859
例えば、通常は1対1の対面セッションをオフィスで行っているセラピストを考えてみてください。Zoomのような技術があれば対面セッションをリモートで継続して行うことができますが、患者の顔を見るだけでは、セラピストは、患者の不安を示す貧乏ゆすりなどの微妙な非言語的シグナルを見落としてしまう可能性があります。このような課題を解決して、リモートでのコミュニケーションを対面と同じように効果的にする必要が出てきています。
テクノロジーは進歩し続けており、今日のリモートツールが直面している課題の多くに対応したソリューションが登場してくることは間違いないでしょう。例えば、FocusmateやPragliのようなツールは、より自然な形で共同作業や対話を行えるように設計されており、テレワークでも遠隔の同僚とよりパーソナルにつながっているという感覚を与えることができます。
しかし未知なこともあります。オフィスワークにおける従来の環境や文化が、現在私たちが経験しているテレワークによってどれだけ恒久的に変化してしまうのか?パンデミックが終われば、従業員はオフィスに戻り以前と同じように仕事を再開するのか?それとも、企業はその後も全面的にテレワークを続けるのでしょうか?恐らく多くの企業はオフィスワークとテレワークのハイブリッドに落ち着くと言われています。つまり、必要なときはオフィスに行き、そうでない時はリモートという柔軟で自由な働き方を享受できる世界へと向かうのです。
シアトルの郊外にあるアウトドアブランド企業のREIは、テレワークが今後のニューノーマル(新常態)になると判断して、最近完成したばかりの40万平方フィートの本社に移転しないことを決定しています。しかし、すべての企業がこのように感じているわけではありません。Facebookは、そのREIの建物を3億6,800万ドルですぐに購入し、来年には新たに数千人の従業員を追加すると発表しています。 https://www.bloombergquint.com/onweb/facebook-buys-rei-s-hq-showing-there-s-life-for-office-demand
ビジネスの世界ではディスラプション(破壊)という言葉をよく口にしますが、それは通常、既存のシステムを覆す新しいビジネスモデルを実現する企業や人というくだりで語られます。しかし、過去100年で最も破壊的かつ世界的なディスラプション(リモートワークの実践)が、ミクロサイズのウイルスによって引き起こされたというのはいささか皮肉な話だと思います。
<リモートでのコラボレーションを支援するテクノロジー企業>
Spatial (https://spatial.io)
Spatialは、ホログラフィックとVRを用いたコラボレーションツールで、ウェブカメラで撮影した2次元画像から参加者の3次元アバターを生成できる。このアバターは仮想空間で動き、他のユーザーと同じ場所にいるような感覚を与えてくれる。また、会議に関連するデータ、チャート、モデル、その他のツールも仮想環境上で操作することが可能で、それらはどこからでも共有、ストリーミング、保存、再アクセスすることができる。
Focusmate (https://www.focusmate.com)
Focusmateは、重要な仕事を責任を持って終わらせたいと考えているビジネスマン(特にリモートワーカー)をつなぐツールである。ユーザーが仕事しなければいけない時間を設定すると、Focusmateは他のユーザーとペアリングして、ライブのバーチャルコワーキングセッションを開いてくれる。ユーザーは、動画でつながることでお互いの責任(アカウンタビリティー)を高め合い、仕事により集中できるようになる。
Pragli (https://pragli.com)
Pragliは、オフィスでの活動を仮想化して、あたかも遠隔地にいるメンバーが同じオフィスの机のシマに座っているように感じられるようなコラボレーション方法を提供している。例えば、マウスやキーボードの動作やSpotifyで音楽を聴いているかを確認することで、チームメンバーがデスクにいて集中しているのかを判断することができ、ウェブカメラを使って定期的に自分の顔写真を撮ることで、アバターに顔の表情を反映させられる。
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