今回は、Innovative Education with AI Technologyというレポートの2回目の紹介になります。AIは、変革が進む教育市場の中で重要な役割を担うようになってきていますが、AIがどんなに進んだとしても、最良の学習⽅法は、素晴らしい教材を提供する優秀な教師と対話することにあり、これはしばらくの間変わらないと考えられます。
何年も前から、人工知能(AI)の未来がどうなるのか?そして私たちの生活がどのように変わるのか?についてたくさんの議論がなされてきました。Google のCEO であるSundar Pichai ⽒は、AIについて「おそらく⼈類がこれまで取り組んできた中で最も重要なもの」と述べています。しかし、AIに対する期待は現実とは少し誇張されて語られているかもしれません。実際のところ、AIが完全に制御したロボット執事や空飛ぶ車はまだ世の中には一般的に登場していません。その中で、あまり派手ではないのですが、非常に重要な市場でAIは大きな影響を与え始めています。今回、Webrainではテクノロジーによる教育市場の変革を調べてみて、AIが学校教育だけではなく、職場や生涯を通じた私たちの学び方を大きく変えようとしていることが分かったのです。 https://theconversation.com/ais-current-hype-and-hysteria-could-set-the-technology-back-by-decades-120514
私たちの調査では、教育分野に新しいパラダイムを引き起こす3つの中核的な分野があることが分かってきました。1つ目は「スマートコンテンツ」です。これは教師の負担を軽減して、⽣徒と直接対話ができる時間を増やすことに貢献しています。McKinseyの調査によると、教師は平均して週に13時間、宿題の採点や授業計画の作成などの事務作業に時間を費やしており、学校の予算と職員数が大幅に削減されている現在の米国の教育現場において、スマートコンテンツのツールによる自動化は教師の負担を減らしています。これにより、成績評価や授業の作成を自動化することができ、教師の過労状態を解放し、人間でないと教えられないスキルの醸成により多くの時間を割けるように支援しています。 https://www.mckinsey.com/industries/public-and-social-sector/our-insights/how-artificial-intelligence-will-impact-k-12-teachers
2つ目はインテリジェント・チューターリング・システム(ITS)です。これはアダプティブ・ラーニングと呼ばれることもあります。これまでの教育システムの多くは、すべての生徒を同じ方法で扱うことを中心に構築されてきましたが、実際には誰もがそれぞれ最適な学習速度やスタイルを持っています。ITSは、それぞれの生徒のパフォーマンスや行動に応じて継続的にカスタマイズされるリアルタイムなコンテンツを提供することで、この問題に対処することを目指してます。言い換えれば、生徒が教材を学習しているときに、ITSはその学生について常に学習しているということになるのです。
しかし、教師が不足している場合や、対面での学習やトレーニングが不可能な場合はどうすればよいのでしょうか?そこで登場するのが、3つ目のAIを活用したバーチャルのファシリテーターや学習環境です。ITSと同様に、人間の教師に代わって、バーチャルな人間が各生徒のKnowledge Space(知識空間:あらゆる事象に対する理解が存在している知性の空間)に合わせて高度にカスタマイズされたコンテンツを提供します。つまり、これらのシステムは、生徒が現在どの学習レベルに到達しているか、将来どのレベルに到達する必要があるかを評価し、そこに到達するために何をすべきかを正確にロードマップとして作成してくれるのです。
近年のAIの進化の速さを考えると、テクノロジーが教師の仕事を軽減していくことが想像できます。そして最終的には人間の関与を必要としなくなるまで進むかもしれません。しかし、これは果たして現実的でしょうか?AIの専門家であるYaroslav Kuflinski氏は、少なくともそうは考えていません。同氏は、「最良の学習⽅法は、素晴らしい教材を提供する優秀な教師と対話することにあり、おそらくこの事実はこれからも変わらないだろう。」と述べています。 https://www.emergingedtech.com/2019/07/4-ways-artificial-intelligence-is-changing-the-classroom/
今から100年後の教育を考えると、現在の教室での学びとは根本的に異なるものになっていることは間違いありませんが、それは突然の変化ではなく徐々に洗練されていく形で実現されていくでしょう。
<AIを用いた教育テクノロジー>
ここでは、スマートコンテンツ、インテリジェント・チュータリング・システム(ITS)、そしてAI を活⽤したバーチャルファシリテーターと学習環境を提供しているプレーヤーを紹介します。
Bakpax (https://www.bakpax.com)
Bakpaxは、AIとビッグデータを使⽤して⼿書きの回答を認識して採点するツールを提供している。教師が作成した課題や模範解答を同社のプラットフォームにアップロードすると、その課題は⽣徒が印刷して使⽤できるフォーマットに変換される。⽣徒は回答欄に答えを⼿書きで⼊⼒した後に、その解答⽤紙を写真で撮影してアップロードする。Bakpaxは、⽣徒の解答を読み取って模範解答と⽐較して採点することで、⽣徒に即座にフィードバックを提供することができる。この製品では、⽣徒のパフォーマンスを追跡できるため、教師は必要に応じて特定の⽣徒の課題をパーソナライズすることもできる。Bakpaxにアップロードされた課題やテストは、教師間での共有も可能である。
Carnegie Learning’s MATHia and MATHiaU (https://www.carnegielearning.com)
Carnegie Learning は中学から⼤学レベルまでの数学学習を⽀援しており、AIを活⽤したアダプティブ・ラーニングと1 対1の指導を提供するソフトウェアを開発している。それらの製品には、MATHia(中学レベルの代数)とMATHiaU(⼤学数学)がある。この製品は、決して疲れることのない⼈間のコーチのような存在であり、⽣徒は段階的に学びを進めることができる。例えば、⽣徒にとって理解が難しい内容があった場合には、その内容に関する質問が別の表現に⾔い換えられる仕組みになっており、同社のAIはその⽣徒が内容を理解するまでとことん向き合うようになっている。
Assessment and Learning in Knowledge Space (ALEKS) (https://www.aleks.com)
ALEKS は、知識空間理論(Knowledge Space Theory)とAIを活⽤したソリューションで、⽣徒の現在の知識ベースに基づいてパーソナライズされた数学や科学の知識を提供することで、最終的な学習⽬標の達成を⽀援している。同製品は、選択式ではなく⾃由回答式を採⽤しており、⽣徒はより⻑い回答を⼊⼒し、回答に到達するまでに⾏った作業をより良く⽰すことができる。これによって、ALEKSはウェブベースであるにも関わらず、紙とペンを⽤いた学習のような効果を生み出すことができる。K-12(幼稚園から⾼校)でも、⼤学でも、⽣徒は初期の知識ベースを確認するテストを受ける。その後テスト結果に基づいて出題すべき質問が特定される。同社のAIは⽣徒の回答を分析することで、正しい回答を導くために必要な知識が不⾜している箇所を推測する。この分析は、⽣徒の知識ギャップを埋めるために必要な指導を特定するために使⽤される。McGraw-Hill Educationが所有するALEKSは、カリフォルニア⼤学アーバイン校の認知科学者とソフトウェアエンジニアによって設⽴されている。
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