今回は、The Emergence of Civic Techというレポートの2回目の紹介になります。シビックテックは、市民のエンゲージメントを高めるだけではなく、全ての世代を包摂(インクルーシブ)した民主主義の実現を支援するツールになることが期待されています。日本ではデジタル庁の設立や行政改革が注目される中、市民視点のデジタルツールとは何か、その参考になるのではないかと思います。
民間調査会社のIDC Government Insightsとソフトウエア企業のAccelaが行った調査によると、シビックテックの世界市場は2015年時点で64億ドルに達しており、この市場は国や地方自治体のIT支出と比べて、2013年から2018年の間で14倍も大きく伸びると予測されています。このシビックテックの高まりは、実は民主主義と密接に結びついているのです。 https://www.govtech.com/budget-finance/6-9-Billion-to-be-Spent-on-Civic-Tech-in-2015-Report-Says.html
なぜなら分断が進む現代社会において、シビックテックの台頭は民主主義をよりオープンで参加しやすい形へと刷新すると期待されているからです。Open Technology InstituteのフェローであるHollie Russon Gilman氏は、「シビックテックは、2年から4年ごとに行われる選挙を越えて、市民をガバナンスに関与させる新たな機会を提供している。シビックテックは平等な公共圏(public sphere)を構築し、民主主義を深めることにつながる。」と主張しています。 https://www.cityclub.org/blog/2018/05/21/good-tech-bad-tech-how-could-tech-for-good-be-bad
一般的に、市民一人ひとりに政府や地方自治体を動かす思いを持ち続けさせることは難しく、自治体は新しいデジタルツールに頼り、市民のエンゲージメント(市民と自治体の相互関与)をより簡単に実現する方策を模索しています。例えば、非営利団体であるCode for Americaは、地方自治体の運営や市民への政府サービスの改善を支援するテクノロジーを構築するために、ボランティアのネットワークを組織しています。また、City Innovateはテック系のスタートアップがより公共事業に参画することを支援しており、Countableでは市民が直接議員と連絡を取って自分の意見を共有するダッシュボードを構築しています。
また、シビックテックはシルバー民主主義による世代間不平等を是正する手段としても期待できるのではないでしょうか。少子高齢化に加え、若者世代と高齢世代の投票率の差が拡大していることで、高齢者層の政治への影響力が増大しています。特に日本では、2014年の衆議院議員総選挙における若者世代(35歳以下)と高齢世代(55歳以上)の投票率の差は25%にまで拡大しています。このシビックテックは、デジタルネイティブであるミレニアル世代やZ世代たちにとって自分たちの声を届けるための身近で適切なツールとなり、全ての世代を包摂(インクルーシブ)した民主主義の実現を支援していくことが期待されているのです。 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=58222?pno=2&site=nli
先日、米国では11月の大統領選挙に向けた第1回目のテレビ討論会が行われました。その討論の中身はさておき、Forbes誌では、18歳から29歳の若者のうち63%が今回の大統領選挙では「間違いなく」投票に行くというHarvard Youth Pollが最近行った調査の結果を伝えています。この若者の選挙への強い関心は、これからのテクノロジーと民主主義の関わりをさらに加速させていくのではないかと思っています。 https://www.forbes.com/sites/alisondurkee/2020/09/21/more-young-voters-say-they-will-definitely-vote-this-year-than-prior-elections/#4064a41156f1
<市民参加を強化するシビックテックのプレーヤー>
Code for America (https://www.codeforamerica.org/)
Code for Americaは無党派で非政治的な非営利団体である。正式名称はCode for America Brigade(旅団)。地方自治体の運営や市民への政府サービスの改善を支援するテクノロジーを構築するために、ボランティアのネットワークを組織している。Code for Americaのプロジェクトには、カリフォルニア州のフードスタンプ(低所得者向けに行われている食料費補助対策)のオンラインアプリなどがある。85拠点ある支部(旅団)は、それぞれの地域での地方自治体を支援してデジタル時代に効果的で公平なサービスを提供するために組織されている。
City Innovate (https://www.cityinnovate.com/)
City Innovateは、地方自治体が最も適したユーザー中心の製品とサービスを導入できるように指導している非営利団体である。同団体は、地方自治体が新しいデジタルテクノロジーソリューションを試し、リスクを最小限に抑えながらそこから学ぶことを支援している。またCity Innovateでは、スタートアップ企業による公共事業の請負を可能にするための支援も行っている。同団体は、2013年にサンフランシスコ市長の特別プロジェクトであるStartup in Residenceとして開始され、2014年には非営利団体として独立し、輸送、住宅、公共安全などの問題に取り組んでいる。
Countable (https://www.countable.us/)
Countableはスマホアプリとして利用できるオンラインダッシュボードであり、市民は議会法案や既に施行中の法律の概要を確認したり、メールまたはビデオを通じて議員と連絡を取って自分の意見を共有したり、さらに選出された議員がどのように法案に投票しているかをトラックキングすることができる。Countableでは、市民に客観的な概要を提示することを目的にすべての法案を要約している。このダッシュボードは、訪問したユーザーがソーシャルメディアで行動を起こすために自分の支援者ネットワークを募ることもできる。同社は、2019年5月に関連企業のBrigadeを買収している。
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