今回は、eSports and Digital Fan Engagement Platformsというレポートの2回目の紹介になります。デジタルを起点とするeSportsは、既存のプロスポーツから「ローカル(地元)」という概念を取り込むことで、さらにファンエンゲージメントを高め、プロスポーツとしての真の市民権を得ようとしています。
皆さんもご存知のように米国のスポーツ産業は巨大です。昨年のPwCの市場調査では、2018年の711億ドルから2023年には831億ドルにまで成長すると予測されています。 https://www.pwc.com/us/en/industries/tmt/library/sports-outlook-north-america.html
シアトルにはサウンダーズというプロのサッカーチームがあります。弊社が創設された2000年代初頭、米国でのプロサッカーの人気は低迷しており、当時2部リーグに所属していたサウンダースの試合はいつも閑古鳥が鳴いてました。しかし2009年に転機が訪れます。サウンダースが1部リーグのメジャーリーグサッカー(MSL)に加わることになったのです。それに伴いスタジアムもプロフットボール(NFL)のシアトルシーホークスのスタジアムを共同使用することになりました。それと並行してシアトルでもサッカーブームが巻き起こり、最初のシーズンで1試合当たりの観客動員数3万943人というMSLの記録を打ち立てたのです。 https://number.bunshun.jp/articles/-/38924
その後もシアトルサウンダースは毎試合4万人以上のファンを集め、スポーツマーケティングで最も成功したプロチームのひとつとして日本のスポーツ誌でも取り上げられています。サウンダースのCOOのBart Wiley氏は、「モーメント(瞬間)を作っていくこと。人々の生活を豊かにしていくこと。サッカーを通して人々をひとつにしていくこと。これをクラブのビジョンとして掲げてきた。」と述べています。 https://number.bunshun.jp/articles/-/821538
このように米国のプロスポーツは地元のファンや支援者無しには語れません。地元にフランチャイズがあり、地元のテレビ局やラジオ局、スポーツバーやレストラン、さらに地元の企業やオーナーが一体となってチームを支えています。このスキームがeSportsにはこれまでありませんでした。デジタルで生まれ、デジタルで育ってきたeSportsには「ローカル(地元)」という概念がそもそも存在しません。ネットで世界中の人々が参加することで成功してきたからです。
しかしeSportsも様々なリーグの誕生によって、フランチャイズへの動きが加速しています。レポートの事例研究の章でも紹介したフィラデルフィアの例はその典型とも言えるでしょう。同市はプロフットボール、プロバスケットボール、プロアイスホッケーのスタジアムやアリーナが全て集まる総合スポーツコンプレックスを持ち、来年そこにeSportsチームである「フィラデルフィア・フュージョン」の専用アリーナとなる「フュージョンアリーナ」がオープンする予定です。このアリーナのスポンサーは地元に本社を構える巨大ケーブル企業のコムキャストです。さらに今年からeSportsのプロリーグであるオーバーウォッチリーグがホーム・アンド・アウェイ方式に完全移行することが発表されています。 https://esports-streamer.com/eスポーツのプロリーグにホーム&アウェイ方式が/
デジタルゲームの試合で「ホーム・アンド・アウェイ」という概念が既存とスポーツと同じように根付くかは疑問ですが、ファンとのつながりにおいてはとても重要な概念であり、このフュージョンアリーナが隣接するスタジアムやアリーナと同等の観客動員数を獲得すれば、eSportsが米国でもプロスポーツとしての市民権を得たと判断しても良いのではないでしょうか。下記にデジタルの力を用いてファンとのつながり(エンゲージメント)を支援している企業たちを紹介します。
<ファンとのエンゲージメントを支援するプレーヤー>
iStreamPlanet
Las Vegasに拠点を置くiStreamPlanetは、Aventus Media Processing Suiteと呼ばれる映像処理ツールとOrbis Direct-to-Consumer Platformと呼ばれるプラットフォームを提供し、インターネット経由でのビデオ配信を支援している。同社は、2000年に元NBAプレーヤーのMio Babic氏によって設立され、2015年にTurner Broadcastingに買収されている。現在はWarnerMedia Entertainmentが所有している。iStreamPlanetの技術は、米国大学体育協会(NCAA)の男子バスケットボール大会(通称March Madness)、2010年以降のオリンピック、スーパーボウル(フットボール)、FIFAワールドカップ(サッカー)、F1レース(自動車レース)などのスポーツの配信に導入されており、NBC、Notre Dame Athletics、Pac-12 Networks、AT&T、そしてMicrosoftが使用している。
FanTribe
FanTribeは、スポーツチームがファンと交流するために臨場感のある体験を提供するプラットフォームで、ファンのエンゲージメントの頻度やロイヤルティーを高めることを支援している。モバイルデバイス向けにクラウドベースで構築されたこのプラットフォームには、ファンのアプリ上での活動を追跡するFancardと呼ばれるツール、チーム情報を配信するNewsfeed、ユーザーがアプリを利用したり特定の活動を行ったときにポイントを付与するRewards、ファン同士を競わせることで彼らのエンゲージメントを高めるLeaderboards、そして、試合情報、オークション、グッズ販売、結果予測、投票、ユーザーのエンゲージメントランキングなどの機能が搭載されている。また、レポートと分析によってスポーツチームはファンエンゲージメントを測定し、これらに基づいて適切な対応を取ることができる。FanTribeは、オーストラリアのシドニーに拠点を構えている。
FanPaaS
FanPaaSが開発している顧客エンゲージメントと顧客管理のプラットフォームは、スポーツイベントに参加する際の手間を省くことを目的としたSaaSベースの製品である。同社はホワイトラベル(OEM)のプロバイダーで、製品は顧客であるスポーツチームのブランド名で商品化され提供される。FanPaaSはオープンAPIプラットフォームを通じて、独立したバックエンドシステムをデジタル上で統合し、一元化している。同製品は、指定座席での売店商品のモバイル注文(事前購入も可能)、チケット販売、そしてモバイルチェックイン機能を提供している。その他にも、電子チケットサービス、サードパーティ経由のチケットの検証、チケット番号のトラッキングによるファン個人とチケットデータの紐づけ、そしてファンのロイヤリティープログラムが含まれている。また、FanPaaSは予測分析機能によってより深いエンゲージメントを必要とする顧客を特定し、収益につながる顧客体験を提供することを支援している。
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