Seattle Watch

2021年に入って最初のSeattle Watchは、Edible Intelligence: Data-driven AgriFood Revolutionというレポートの1回目の紹介をお送りします。私たちは今、第4次農業革命を迎えているとも言われており、その中で農業分野の生産性や安全性の改善は欠かせないものになってきています。IT分野ではGAFAやBATHが活躍しているように、農業分野ではバイオメジャーが立ちはだかっています。この分野のベンチャーや知財を巡る攻防はますます激しくなるでしょう。 

Issue 123: Edible Intelligence: Data-driven AgriFood Revolution - Part 1

皆さんはバイオメジャー企業という言葉を聞いたことがあるでしょうか?日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、わずか4社の巨大バイオ企業が世界の農業を牛耳っていると言っても過言ではない状況になっているのです。その4社とは、米国のコルテバ・アグリサイエンス(ダウ・デュポンから分社)、ドイツのバイエル(モンサントを買収)とBASF、スイスのシンジェンタ(中国化工集団が所有)です。90年代にはこの業界では10社以上が競合していましたが、2017年までに巨大な吸収や合併を繰り返し、現在ではこの4社に集約されています。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20190122/se1/00m/020/058000c 

大きな利益を上げることが難しいと言われている農業で、欧米ではなぜここまでの巨大ビジネスになるのでしょうか?それはこれらの化学企業が品種改良に巨額の投資を行い、発育力の強い種や苗を作り出すノウハウを持っているからです。特にビジネスとして拍車を掛けたのがトウモロコシの品種改良によるF1種(雑種第1代)の登場です。このF1種とは初代の交配種を意味し、遺伝の法則(メンデルの第1法則)により、両親から優勢の遺伝子(病気に強い、生育が旺盛など)を受け継ぎますが、この優勢遺伝は初代だけで終わってしまうため農家は種や苗を毎年買わなければなりません。大量生産や均一化、収益力アップを求める農家にとってはF1種が向いているのです。
https://noguchiseed.com/hanashi/f1/f1_1.html

さらにこれらの企業は種苗だけでなく、耕作に不可欠な除草剤、肥料、さらに農薬の開発や販売も行います。これによって農業ビジネスのフランチャイズのような仕組みが欧米の農家で確立されたのです。皆さんもモンサントという社名をご存知かと思いますが、非常に強力な除草剤(ラウンドアップ)を開発する一方で、それに耐性のある大豆やトウモロコシの種を遺伝子を組み換えて開発し、そのセット販売で急速にシェアを拡大し、社会から強い批判を受けました。その後2018年にモンサントはバイエルに買収され、その社名は消滅しました。
https://www.sankei.com/wired/news/171108/wir1711080001-n1.html 

 

そのバイエルは、デジタルでの遺伝子編集技術に長けたGinkgo Bioworks と共同でJoyn Bioというベンチャー企業を立ち上げ、人工的な化学肥料の代わりに遺伝子編集技術で改良した微生物を使って、作物により多くの栄養を与えようとしています。別のバイオベンチャー企業のPivot Bioが開発したPROVENという製品は、トウモロコシ専用の肥料で、微生物の作用で作物が必要な窒素を必要に応じて吸収できるようにしています。今回のレポートでは、これらの遺伝子操作を加えた微生物や機械学習を活用したバイオ農薬などの最先端技術をファーミング・インテリジェンスと定義し、農業の生産性や持続可能性、さらに食品の安全性に関するトレンドを紹介しています。

https://spectrum.ieee.org/energy/environment/bioengineers-aim-to-break-big-ags-addiction-to-fertilizers
https://synbiobeta.com/pivot-bio-raises-100-million-to-transform-agriculture-economics/

 

日本でも改正種苗法が昨年末に可決され今年の4月から施行されます。大きく意見の割れた改正案でしたが、日本の農業関係者が長い年月を掛け苦労して行ってきた貴重な品種改良の結果が簡単に海外に流出するのを防ぐことを考えると最終的には農家の利益につながっていくと思います。育成者へのインセンティブや優れた品種の開発につながることで、日本の安全で美味しい農産物の品質が世界の市場でこれまで以上に高い評価を得て、日本の農業が「大きく儲かるビジネス」になる日が来るのではないでしょうか?

Toshiro Akashi, Editorial Team

<ファーミング・インテリジェンス(遺伝子操作を加えた微生物やバイオ農薬)を提供している企業>

Joyn Bio (https://joynbio.com/)
Joyn Bioは、Bayer(大手化学企業)とGinkgo Bioworks(遺伝子編集で有名なバイオテック企業)によって設立されたスタートアップ企業である。同社は、遺伝子操作を加えたマイクローブ(微生物)によって、植物がバイオーム(微生物叢)に含まれる窒素をより効率的に取り込むことができるプロバイオティクスと呼ばれる製品を開発している。
 

Pivot Bio (
https://www.pivotbio.com/)
Pivot Bioは、遺伝子操作を加えたマイクローブ(微生物)を開発している。同社のPROVENと呼ばれる製品では、トウモロコシの種を蒔くときに遺伝子操作を加えたマイクローブ(微生物)を一般的な畝立て機を用いて散布する。苗が成長すると、この微生物が根に付着し吸収した窒素を植物に供給する。
 

Terramera (
https://www.terramera.com/)
カナダのバンクーバーに拠点を置くTerrameraは、米国とインドで事業を展開しており、科学、自然、AIを組み合わせることで農業分野での化学物質の使用削減を目指している。農薬の有効性と最終的な収穫率を相関させるフェノミクスベースのモデリングと予測システムの構築に取得したデータを使用することで、化学肥料(化学農薬)を上回る性能を持つ天然化合物(バイオ農薬)を開発している。