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Hideya Tanaka

SW 212 - 米大統領選挙の動向とその影響

今回のSeattle Watchでは、今年の11月に行われる米大統領選挙の動向と今後への影響について見ていきます。地政学的リスクが高まる中で、米大統領選挙の結果は今後の国際秩序の行方を左右するだけでなく、日本企業の事業計画や投資判断にも欠かせない要素になってくるでしょう。


 

米国と世界の行方を左右する米大統領選挙が、2024年11月5日に予定されています。民主党では、現職のバイデン大統領が選挙戦からの撤退を表明し、ハリス副大統領が後継候補となりました。ハリス氏は、「皆が手頃な医療費や保育を手にする未来を信じる」と述べ、低所得層を底上げし中間層を拡大するバイデン氏の方針を引き継ぎ、子育て支援を含む福祉拡充の必要性を訴えています。共和党では、再選を目指すトランプ前大統領が党内で正式に大統領候補に指名され、減税、関税引き上げ、移民の厳格な取り締まりなどを掲げています。


世論調査データ収集サイトのRealClearPoliticsによると、トランプ氏の支持率は47.9%、ハリス氏の支持率は46.2%(7月5日から25日まで)であり、両者は拮抗しています。民間調査機関のGavekal Researchは、米国の政治状況を「センセーショナルに予測不可能」と表現しています。


今回の米大統領選挙にはいくつかの主要な争点があります。1つ目は外交政策です。バイデン大統領は国際協調主義を掲げ、トランプ前大統領の「アメリカ第一主義」とは異なる外交を展開してきました。バイデン政権は「民主主義サミット」(詳細はこちらを参照)を立ち上げ、ロシアや中国に対抗し、民主主義国家の団結を図っています。しかし、トランプ氏はこれがかえって非民主主義国家の結束を招き、ロシア・中国・イラン・北朝鮮が関係を深め、アメリカとの対決姿勢を強めていると主張しています。世界の安全保障環境が厳しくなる中で、米国大統領選挙の結果は国際秩序の行方を左右しかねません。


もう1つの争点は人工妊娠中絶の問題です。米国における人工妊娠中絶の問題は、個人の権利、宗教的信念、医療へのアクセス、そして政治的イデオロギーが複雑に絡み合う課題です。トランプ前大統領は在任中に連邦最高裁判事に3人の保守派を任命し、人工妊娠中絶の権利を認めた「ロー対ウェード判決」を2022年6月に連邦最高裁が覆す流れを作りました。その後、少なくとも14州が中絶を全面的に禁止しました。しかし、Pew Research Centerの世論調査では、米国成人の62%が中絶を全面的、もしくは大半のケースで合法にすべきと回答しています。トランプ氏が中絶規制を各州の判断に委ねると表明する一方で、ハリス氏はカリフォルニア州司法長官時代から中絶の権利や生殖医療へのアクセスを提唱しており、中絶の権利を守るための法整備を進める意向を示しています。


人工妊娠中絶の問題以外でも、民主党と共和党の支持者は大きく分断しており、文化戦争(Cultural Wars)と呼ばれる構図が起きています。Pew Research Centerが2024年4月に行った調査では、次のような興味深い結果が出ています。

  • 人種と奴隷制度:トランプ支持者のうち、かつての奴隷制度が今日の米国における黒人の立場に「大いに影響する」または「まあ影響する」と答えたのはわずか27%で、73%は「ほとんど影響しない」と答えています。一方、バイデン支持者は79%が「奴隷制が黒人の立場に今も影響を及ぼしている」と回答し、20%が「あまり影響はない」または「影響はない」と回答しています。

  • 性自認と同性婚:トランプ支持者のほぼ全員(90%)は、性別は出生時の性別によって決まると答えています。これとは対照的に、バイデン支持者の意見は分かれており、約59%が、性別は出生時の性別と異なることがあると答えています。最高裁が同性婚を合法化してから10年近くが経過していますが、バイデン支持者とトランプ支持者では、この歴史的判決の影響に対する見方が大きく異なっており、バイデン支持者の57%は、トランプ支持者の11%の約5倍の割合で、同性婚合法化は社会にとって良いことだと回答しています。

  • 移民規制:トランプ支持者の63%は、不法入国者全員を強制送還する国家的取り組みを支持しているのに対し、バイデン支持者はわずか11%です。また、刑事司法制度全般(死刑や終身刑などの罰則含め)についても、トランプ支持者の81%は、現在の刑事司法制度は犯罪者に厳しくないと回答しており、バイデン支持者の40%に対して約2倍となっています。

  • 家族のあり方:トランプ支持者の59%は、人々が結婚をして家庭を優先する方が社会は良くなると考えており、バイデン支持者の19%に対して約3倍となっています。同様にトランプ支持者は、国の出生率低下を案じており、47%が「少子化は悪いことだ」と答えており、バイデン支持者の23%と比較して約2倍の割合となっています。(※Pew Research発表のデータをそのまま訳しており、その背景や理由についての説明が記事にはありませんが、一つの推測として、トランプ支持者は保守的で、伝統を重んじる福音主義の人が多く、家族という構成単位が社会の安定化には不可欠で、そのためには結婚して子どもを産むことが奨励されると考える傾向が強いからではないかと考えられます。)


トランプ氏の銃撃事件、バイデン氏の撤退、二極化が進む有権者など、混迷極まる米大統領選ですが、日本や世界にはどのような影響があるのでしょうか?第一生命研究所のエコノミストは、トランプ氏が勝利した場合、エネルギー資源の供給拡大や、EVシフトの減速でハイブリッド車などを得意とする日本企業に有利に働くという恩恵も考えられるが、保護主義的な政策による輸出への影響や、地政学リスクの高まりを通じたエネルギー価格高騰のリスクも懸念されると指摘しています。


米大統領選挙は世界経済に大きな影響を与えるため、自社の事業計画や投資判断にも欠かせない要素です。また、新政権の政策方針から新たな市場機会や事業展開のチャンスが訪れる可能性もあります。特に、大統領選を通じて「いまのアメリカ社会」で生きる人たちの価値観や分断の文化的背景を深く理解することは、米国市場へのアプローチや現地でのビジネス展開を進める際に、より重要になってきます。Webrainでも、いまのリアルなアメリカ社会とその動向を伝えていきながら、その背景から生まれる新たなビジネスチャンスを見る目を磨くという観点で、引き続き米大統領選挙の行方を見守っていきたいと思います。


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