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  • Hideya Tanaka

Issue 195 - 人間中心の新しいインターフェース

今回のSeattle Watchでは、最近話題になっているHumane社の新しいウェアラブルデバイス「Ai Pin」を取り上げながら、スマホなどのスクリーンを代替・補完するような人間中心のインターフェースについて考えていきたいと思います。

 

私たちはスマートフォンやPCのような多くのスクリーンに囲まれて生活しています。それが当たり前になっているため、何の不便や疑問も感じないという人もいるかもしれませんが、スクリーンというインターフェースは果たして人間がコンピューターと対話をする上で最も便利な方法なのでしょうか?


スウェーデンの通信機器メーカーであるEricsson では、2015年に「AIは5年以内にスマートフォンに取って代わる」という予測を発表していました。その理由は、AIがスマートになることでスマホのスクリーンを使わずにコンピューターデバイスと会話できるようになるからだと指摘してます。実際、Amazon EchoやGoogle Nestなどのスマートスピーカーの登場によって、スクリーン操作から音声コマンドへと対話の方法は変わりましたが、まだAIがスマホを代替したとは言えません。


GoogleやSamsungに勤めていたデザイナーのゴールデン・クリシュナ氏は、「我々は現在スクリーン時代の最盛期にいる。」と述べており、自身の著書「The Best Interface Is No Interface」の中で、新しいインターフェースデザインの究極の目的はそれ自体を見えなくすることであり、それによってユーザーは自然に対話が出来、その存在を意識することさえなくなると主張しています。


主流のインターフェースであるスマホですが、長時間の使用による身体面および精神面での悪影響が指摘されています。また、スマホを開けば私たちは大量の情報にさらされて、企業同士が消費者のアテンション(関心・注意)を奪う争いに巻き込まれてしまうため、アテンション・エコノミーを加速させる要因となっています。そのため、より人間中心の新しいインターフェースのあり方がますます重要視される時代に入っていると言えます。


このような中で、今年の初め頃からシリコンバレーで注目を集めていた企業があり、今年の11月に入ってその全貌が明らかになりました。その企業とは、iPhoneを生んだAppleでハードウェアの設計とソフトウェアの開発に関わっていたイムラン・チョウドリ氏とベサニー・ボンジョルノ氏が立ち上げたHumaneです。スマホに代わるかもしれない新しいウェアラブルデバイス「Ai Pin」を開発する同社では、企業評価額がすでに2023年3月時点で8億5,000万ドルに達しており、SalesforceのCEOのマーク・ベニオフ氏、マイクロソフト、LG、ボルボ、クアルコム、そして最大の株主としてOpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏が投資家に名を連ねています。


Ai Pinは、シャツやブラウスの胸の位置に留めることが可能な小さな四角いデバイスで、手のジェスチャーや音声による操作で、写真を撮ったり、音楽を再生したり、Ai Micと呼ばれるAIアシスタントと自然な言葉で対話したりすることができます。また、ユーザーの手のひらにレーザーで視覚的なインターフェースを投影する機能や、内蔵スピーカーによってユーザーの周りに音の泡を作り出すことで、イヤホンがなくても周囲の人には聞こえない形で音を体験する機能も搭載されています。人々がスマホに頼りすぎない世界を目指す同社は11月16日から米国でAi Pinの注文の受付を開始しており、本体価格は699ドル~799ドルで、通話、テキストメッセージ、データ通信に月額24ドル(約3642円)がかかると発表しています。


Ai Pinがスマホやスクリーンなどの既存のインターフェースを本当に代替するかはまだ分かりません。大きさや重さなどによる不便さが指摘されているARグラスなどに比べると使いやすいのではないかという評価がある一方で、提供される機能が限定的という批判や、カメラを常に外に向ける構造のため、プライバシーの面からの懸念も挙がっています。しかし、Humaneが挑戦しようとしている「AIエージェント」というコンセプトは今後大きなトレンドになることが予想されています。Microsoftの創設者であるビル・ゲイツ氏は将来的にアプリは死んでいくと予測しており、「スマホやPCを使ってタスクごとにアプリを使い分ける必要はなくなり、デバイスに日常的な言葉で自分が何をしたいのかを伝えるだけで済むようになる。」と述べています。


このように、インターフェースの世界において、Humaneやそこに投資するMicrosoftやOpenAIが新しいスタンダードを築こうとしている中で、日本企業はこの戦いにどう挑めばよいのでしょうか?例えば、京都のmui Lab(https://muilab.com/en/)というIoTのスタートアップ企業は、「無為自然」のコンセプトのもと、テクノロジー、人の生活、自然との調和をデザインコンセプトの中心に据えたインターフェースの開発を目指しています。鉄腕アトムやドラえもんなどの世界観に代表されるように、日本には欧米とは違ったコンピューターとの対話のあり方を志向する独特の価値観があるように感じます。こうした自分たちの価値観を再認識し、それを生かしたスタンダードをどう生み出していけるかが今後のカギになってくるように感じます。






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