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Hideya Tanaka

Issue 188 - ハリウッドのストライキとAI

今回のSeattle Watchでは、ハリウッドで起きている俳優や脚本家たちによるストライキについて見ていきます。彼らがストライキを起こす背景には、声を上げて立ち上がらないと、AIに仕事が奪われるかもしれないという切迫した危機感があります。また末尾には、弊社代表の岩崎が登壇予定の「海外売上の加速」をテーマにしたウェビナー(8/29(火)11:00-12:00開催)についての情報も記載しておりますので、ご興味のある方は奮ってご参加ください。

 

多くのニュースで取り上げられているように、ハリウッドでは今、米脚本家組合(WGA)と全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)という2つの組合が同時にストライキを起こしており、映画の宣伝イベントも軒並みキャンセルされています。この2つの組合が同時にストライキを起こすのは1960年以来63年ぶりで、今回は年末までストライキが長期化する可能性もあることから、今後の主要な映画作品に影響が出ることが懸念されています。脚本家や俳優が、全米映画テレビ製作者協会(AMPTP:映画会社、テレビ局、ストリーミング事業者らが所属)に対して要求していることは、「正当な報酬の設定」と「AI導入に対する適切な規制」の2つと言われています。 https://www.bbc.com/news/world-us-canada-66205719


1つ目の報酬の問題は、過去のSeattle Watch(こちら)でも紹介した動画ストリーミングサービスの普及に深く関連しています。現状では、映画などの作品はストリーミング事業者に対して売り切りで提供されているため、どれだけその作品が再生視聴されても、追加の収入(二次利用料)が得られない仕組みになっています。そのため、再放送による二次使用料が払われれていたテレビ放送が主流であった時代に比べて、脚本家や俳優が適正な報酬を得られていないという問題が生じています。ハリウッドと聞くと煌びやかで誰もが裕福なイメージですが、演技だけで生活できる俳優は一握りで、それは脚本家も同じ状況です。 https://maonline.jp/articles/movie-column-hollywood-strike


2つ目のAIに関する問題は、産業革命期のラッダイト運動と類似している点があります。つまり、脚本家や俳優たちは、ラッダイト運動で工場機械を破壊した労働者たちのように、新しく登場したAIという自動化機械が自分たちの仕事を奪うのではないかと心配しているのです。映画俳優組合(SAG-AFTRA)と映画テレビ製作者協会(AMPTP)の交渉が決裂した理由の1つに、「エキストラのAIスキャン」というAMPTP側の提案があります。


この提案は、AMPTP側がエキストラの動きをAIでボディースキャンして、1日分の出演料を払う代わりに、その映像や肖像を会社が所有して永久に使用できるようにするというものです。これは、これからキャリアを積んでいく若手俳優たちの機会を奪うとともに、倫理的な問題(例:本人が言ってないことをAIで合成して言わせる)も生み出します。さらに言えば、AIが将来「不気味の谷」(AIなどで中途半端に人間に似せた対象に違和感や嫌悪感をもつ現象)を乗り越えた場合、多くの人々は自分が見ている俳優が、実在する俳優か、ディープフェイクで作られた俳優かどうかさえも気にしなくなってしまう恐れもあります。(ただ既にCGによって作られた映画や初音ミクなどは普通のことになってきているので、実在するかどうかは既に関係なくなりつつあるかもしれませんが) https://www.washingtonpost.com/technology/2023/07/19/ai-actors-fear-sag-strike-hollywood/


脚本家も、AIに自分たちの脚本を学習させてしまうと、脚本の執筆や書き換えがAIに代替されることを危惧しています。実際、NetflixやDisneyなどのスタジオはAIに積極的に投資しており、The Hollywood Reporter誌によると、Netflixは年俸90万ドル(約1億2500万円)のAIプロダクト・マネージャー職を募集しており、インディーズ映画監督のJoe Russo氏は、「NetflixはAIの盗作者に、私たちの脚本に支払う以上の報酬を支払うつもりだ」と批判しています。


しかし、仮にAMPTPがAIの利用を制限したとしても、AMPTPに所属しない海外の制作会社がAIを利用した作品を制作することは容易に想像できます。その場合、AIを取り入れた方が制作コストの削減になるため、ハリウッド自体が競争力を保てなくなってしまうという非常に難しい現実に直面しています。 https://www.huffpost.com/entry/netflix-ai-job_n_64c2873be4b021e2f291de2e


脚本家や俳優たちが正当な権利とそれに見合う報酬を得るためにはどうすればよいのか、AIをどのように制限することが、彼らの生活を守りながら業界としての競争力を高めていくことになるのか、という大きく複雑な問題にハリウッドは直面していると言えます。AIに仕事を取られても、もっと新しい仕事が生まれて来るとも言われてましたが、実際には、リスキリングをして新しいスキルを手に入れない限り新しい仕事は見つからないという現実が、これから起きようとしているのかもしれません。そして、この問題は他の産業でもいずれ起きることであり、今回ハリウッドの脚本家や俳優たちが危機感をもってこの問題に立ち向かい闘っている姿から学べることは多いのではないでしょうか? https://www.wired.com/story/hollywood-sag-strike-artificial-intelligence/

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