今回のSeattle Watchでは、人材や技術の供給源としてシアトルのテックシーンを支えるワシントン大学について紹介していきます。ワシントン大学は医療やバイオなどの分野で様々な技術革新を生み出すだけでなく、イノベイティブなスタートアップを輩出するハブとしても機能しています。
過去のSeattle Watch(こちら)では、シアトルとその近郊に拠点を置く企業の歴史について触れました。その中には、マイクロソフト、ボーイング、スターバック、コストコといった企業が含まれています。 今回は、シアトルから生まれたさまざまなイノベーションを紹介し、その歴史においてワシントン大学が果たした役割を探ってみたいと思います。
シアトル発であまり知られていない企業には、世界最大の運送会社のひとつであるUPSがあります。UPSは、シアトルのパイオニアスクエア地区で10代の2人の兄弟によって設立されています。現在のパイオニアスクエアはシェアオフィスが多いエリアで、社会起業家や社会課題の解決を目指す企業が利用するコワーキング・スペースとして知られるImpact HUBや、起業家のアイディエーションを支援するスタートアップスタジオのPioneer Square Labsなどがあります。また1950年に開業したノースゲート・モール(Northgate Mall)は、規模、デザイン、コンセプトの斬新さから、米国で当時最も注目された郊外型ショッピングモールとして知られています。音楽の世界を見てみると、1936年にポール・タトマルクがこの地でエレクトリック・ベース・ギターを初めて作ったと言われています。そしてベースアンプで有名なAmpegは、4年前にヤマハに買収されましたが、それまでシアトル近郊のウドゥンビルに本社を置いていました。シアトルは、ガレージロックやグランジという新しい潮流を音楽シーンに与え、ザ・ソニックス、ニルヴァーナ、パール・ジャム、ハートと言ったロックバンド、そしてジミー・ヘンドリックス、クインシー・ジョーンズ、ケニーGといったミュージシャン達を世界に送り出し、豊かな音楽的遺産を生み出してきたことでも知られています。 https://curiocity.com/10-of-the-coolest-things-that-were-invented-in-seattle/
Webrainのオフィスからわずか数キロのところには、ワシントン大学(University of Washington)のメインキャンパスがあり、3つのキャンパスに6万人以上の学生が在籍しています。US News and World Report誌による最近の調査では、ワシントン大学は世界の大学ランキングで6位にランクインし、昨年の7位から順位を上げています。この調査は世界90カ国の2,000校以上の大学を対象としており、ワシントン大学は以下の分野でトップ10にランクインしています。
免疫学:第4位
分子生物学および遺伝学:5位
臨床医学:第6位
地球科学:第7位
感染症学:第7位
公衆衛生・環境衛生・職業衛生:第7位
社会科学・公衆衛生学 :第7位
生物学・生化学:第8位
微生物学:第10位
ワシントン大学は、医学研究と技術革新に関して特に長い歴史を持っています。学生や教授が過去に世に送り出した重要な医療発明には、次のようなものがあります。
1920年代:ケミカルエンジニアリング学部の卒業生であるワルド・セモンが合成ゴムを発明
1960年代:医学部卒業生のウィリアム・フォージが天然痘の新しい予防接種方法を開発し、天然痘の根絶に貢献
1990年代: E・ドナル・トーマス博士が、骨髄移植の先駆者としてノーベル生理学・医学賞を受賞
1990年代:ワシントン大学とジェネンテックの共同事業で、B型肝炎ワクチンの核となる「酵母技術」の特許を取得
2000年代:理学士号を取得したリンダ・バック博士が嗅覚受容体の発見でノーベル生理学・医学賞を受賞
Pitchbookのデータによると、VCの支援を受けた企業の創業者となった卒業生の数で、ワシントン大学はトップ100大学のうち24位にランク付けされており、アントレプレナーシップも高く評価されています。VCが支援している14万4,000社の企業のうち、ワシントン大学は456人の創業者と413社のスタートアップ企業を輩出し、これらの企業は118億ドルの資金調達に寄与しています。また、ワシントン大学は女性創業者を多く輩出した大学として21位にランクインしています。 https://www.geekwire.com/2022/univ-of-washington-is-24th-in-ranking-of-top-100-colleges-based-on-startup-founders/
特に、ワシントン大学のバイオエンジニアリング学部は、数多くの技術革新を生み出しており、ポータブルなラボ・オン・チップ(小さなチップの上に微細加工された実験設備を組み込んだもの)から、スマートポリマーで生体分子の働きを制御するものまで多岐にわたります。現在までに2,000件近い特許を申請し、そのうち550件が認可され、107件が有効なライセンスを受けています。また、1,000件以上の発明と47件のスタートアップ企業の立ち上げが学生や教員の研究によるものです。また、ワシントン大学には大学の全学部にまたがるCoMotionと呼ばれるインキュベーション施設があります。CoMotionのビジョンは、大学の教員、研究者、学生がアイデアや発明を市場に出すことを支援するもので、過去10年以上の間に100以上ものスタートアップの立ち上げに貢献しています。CoMotionの活動や実績については、こちらからご覧になれます。 https://bioe.uw.edu/innovation/impact
米国で最も革新的な大学といえば、スタンフォード大学やハーバード大学といった名門校がまず思い浮かびます。しかし、今回のSeattle Watchでご紹介したように、ワシントン大学でもこれらの有名大学に引けを取らない積極的な活動が行われています。シアトル地域のスタートアップ企業の多くは、ワシントン大学がこの地域に輩出した優秀な学生や研究者によって支えられています。そして、マイクロソフトやアマゾンなどの大手テック企業がイノベーションに拠出する資金とともに、新しいテクノロジーやトレンドを生み出してきた豊かな歴史を持っています。こうした豊富な資金と人材をもつシアトルは今後も全米で最もイノベイティブな都市のひとつとして盛り上がりを見せてくれるでしょう。
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