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  • Roger Yee

Issue 167 - 内燃機関の終焉とEVの普及

今回のSeattle Watchでは、電気自動車を推進する米国政府と自動車メーカーの動きについて紹介しています。気候変動対策として自動車の脱炭素化は加速しており、自動車を基幹産業とする日本には大きな影響が起きることが改めて予想されます。

 

内燃機関(エンジン)は終焉に向かっているのでしょうか?私はV8エンジンの音に憧れて育っており、このエンジン音を実現するために、触媒コンバーターのバックエキゾーストシステムを取り付けたり、より質の高い音と馬力パワーを求めてフルカスタムでエンジンを製作したり、アフターマーケットで車に多くの改造を施したこともあります。そんな私にとってほとんど音の出ないテスラ・モデルSに乗ったときの体験は、とても奇妙で不思議なものでした。


テスラがモデルSを発売して以来10年、電気自動車(EV)はますます普及していますが、そうは言っても米国で販売されるEVの割合はまだ少ないです。アメリカの道路を走る2億5千万台の自動車、SUV、小型トラックのうち、100%電気で走るEVは1%未満に留まっています。しかし、技術の向上、車種の増加、充電ステーションの拡大により、EV市場は急速に拡大してきているのです。2035年までには、新車販売の45%が電気自動車になると推定されています。バイデン大統領は、新車販売の50%を電気自動車にするという野心的な目標を掲げていますが、これには燃料電池車(FCV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)も含まれます。 https://graphics.reuters.com/AUTOS-ELECTRIC/USA/mopanyqxwva/


その中で2022年の8月に米国で成立したインフレ抑制法は、EVの普及に大きな影響を与えると言われています。この法案は、ヘルスケアのコストやエネルギー価格の引き下げを目的とするだけでなく、気候変動対策としてEVの税額控除もターゲットにしています。インフレ抑制法では、EVの購入者が最大7,500ドルの税額控除を受けることのできる期間が2032年の12月まで10年間延長されています。また、中古のEVにも4,000ドルまたは購入価格の30%の税額控除が適用されることになりました。この法案のもう一つの重要な要素には、米国が中国の鉱物資源に依存しないことを目的としている点です。そのため、税額控除を受ける要件には厳しい要件が設定されており、それらには、「車両の最終組み立てが北米で行われていること」、「バッテリー材料の重要鉱物のうち、調達価格の40%が自由貿易協定を結ぶ国で抽出あるいは処理されるか、北米でリサイクルされていること」、「バッテリー用部品の50%が北米で製造されていること」などが含まれています。 https://www.cnbc.com/2022/10/19/hyundai-bidens-ev-tax-credit-rules-deal-astronomical-blow-to-business.html


また今年の夏には、全米で最も人口が多く全米の新車販売の11%を占めるカリフォルニア州が、2035年までにガソリン車の新規販売を禁止することを決定しました。この規制は段階的に拡大し、ゼロエミッション車と位置付けられた車両が新車販売に占める割合を2026年までに35%に増やすことを義務付け、この割合は2035年までに100%に引き上げられます。カリフォルニア州がこの規制を発表した直後に、ワシントン州、ニューヨーク州、マサチューセッツ州が、2035年までにガソリン車の販売を禁止することを発表しています。既に17以上の州が、連邦政府の規制よりも厳しいカリフォルニア州の排ガス規制に倣っており、今後も多くの州が続くと予測されています。 https://www.cnbc.com/2022/08/25/california-bans-the-sale-of-new-gas-powered-cars-by-2035.html


自動車の脱炭素化が加速する中で、General Motors(GM)は2021年夏にEVと自動運転車の開発・生産に350億ドル以上を投じており、最近では、その投資額を400億ドル以上に引き上げ、15拠点の新工場や工場の拡大を含めたEV関連投資を行う予定です。GMはまた、2035年までにすべてのガスおよびディーゼルエンジンを段階的に廃止する計画を打ち出しています。ちなみにFordはEV関連投資を500億ドルまで増やし、GMを凌いでいます。米国のEV市場への投資は、米国の自動車メーカーだけではありません。Hyundaiはジョージア州で55億ドルを投じたEVとバッテリーの工場を2025年に稼働させる予定で、Kiaも2024年に米国でEVを生産し、税額控除の適用を受けると発表しています。さらに、VWは北米でEVを生産するために70億ドル以上を投資する計画で、BMWも同様に米国のEV事業に17億ドルを投じると発表しています。 https://www.cnbc.com/2021/06/16/gm-ups-spending-on-evs-and-autonomous-vehicles-to-35-billion-by-2025.html


米国では1931年以来GMが販売台数トップでしたが、2021年についにトヨタがその座を奪取しました。北米の自動車市場でもリーダーシップを発揮しているトヨタですが、これまで水素を中心に据えてきたこともあり、EVの未来に100%コミットしてきたわけではありませんでした。トヨタは、今でこそEVシフトを打ち出し、米国のバッテリー工場への投資を3倍の38億ドルに増額していますが、しかし他社を追随する立場にあります。ホンダも米国でEV用の電池を生産する新工場に44億ドルの投資を行い、またEV車のリーフを2010年に世界に送り出して先行してきた日産も、今年初めにミシシッピ州カントン工場に5億ドルを投資し、新型のEVモデルを生産することを発表しています。 https://www.cnbc.com/2022/01/04/toyota-dethrones-gm-to-become-americas-top-selling-automaker-in-2021.html


気候変動に取り組む非営利団体のClimate Groupは、2022年5月に ”Japan and the Global Transition to Zero Emission Vehicles”と題した報告書を発表しています。この報告書では、世界第2位の自動車輸出国である日本は、欧州、中国、米国の多くの主要な市場におけるEV販売で遅れをとっているとし、EV生産に向けてより迅速に行動しなければ、GDPが14%減少する危険性があると示しています。日本の輸出のほぼ5分の1を自動車が占めていることから、もし販売する自動車が米国のEV要件を満たさない場合、2040年までに172万人の雇用と60億ドルの収益が損失するリスクがあるという予測データも算出されています。 https://electrek.co/2022/05/11/japan-could-lose-14-gdp-and-millions-of-jobs-by-stalling-on-electric-cars-report/


米国の連邦法や州法は、1860年以来支配的であった内燃機関の時代を終らせる方向へと業界の舵を切り始めています。欧州連合(EU)では、2035年に内燃機関車の販売を事実上禁止することで合意し、ガソリン車だけでなく、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車の販売もできなくなります。内燃機関の終焉の流れを受けて米国、韓国、ドイツなどの自動車メーカーは、徐々に日本メーカーからマーケットシェアを奪っていくのでしょうか?それとも、日本メーカーが素早く舵を切って他国に追いつき現在の位置を守るのでしょうか?この変化は自動車業界だけではなく、日本社会全体にとっても大きな転換点となる可能性があるのではないでしょうか。

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