以前紹介した「Haptic Intelligence Technology」というレポートの後半の紹介となります。今回は、触覚にとって大切な機能である「臨場感」について話していきたいと思います。また、末尾では11月5日に開催されるセミナーについてのご案内をしております。
新型コロナの影響で様々なイベントがオンラインになり、皆さんもオンライン会議はもう当たり前と感じているかもしれません。Webrainでは、昨年「The New Normal: The Social Distance Economy」というタイトルで、リモート技術について解説しました。さらに「Sales Tech: Data-enabled Trusted Engagement」というレポートでは、これまでの対面での営業や交渉が難しくなった時代に新しい技術やツールを使って如何にその活動を維持していくかというセールス担当者向けの技術を紹介しました。
この2つのレポートを通じて、我々が気づいたことはどんなにリモート技術が進化しても同じ場所に居なければ、その場所が醸し出す「空気感」や「臨場感」が伝わらないということ、そして同じ場所を共有しているというこの感覚は、視覚や聴覚だけでは補うことが難しく、体感という触覚を伴った感覚に依存することが大きいということでした。
その一例として、米国のMediaMationという会社が開発したMX4Dという技術では、体感型の劇場シートを使って、映画のシーンに合わせて座席が前後、左右、上下に動き、さらに風、ミスト、香り、ストロボ、煙や振動など、5感に刺激するような効果を付加価値として提供しています。つまりこれまでの「観る映画」から「体感する映画」へと映画の魅力を高めようとしています。 https://survival-robocon.jp/mx4d.html
このように体感や臨場感というと、エンターテイメントの世界を思い浮かべる人が多いかと思いますが、体感の中でも特に触覚のデジタル化は市場から注目を集めています。その一つの理由として、遠隔での操作、特殊技能の習得や継承などに新しい可能性を見出しているからではないかと思います。
マッスルメモリー(筋肉の記憶)という言葉を聞いたことがあると思いますが、スポーツなどで一度習得した技術は、長年そのスポーツから離れていても筋肉が覚えているので少し練習すると技能が戻ってきます。これはスポーツに限らず、仕事における特殊な作業工程なども、我々は頭で理解しながらも実際には身体で覚えていると言っても過言ではないでしょう。
そこで複雑な作業工程の習得には、視覚や聴覚や嗅覚だけでなく触覚の支えが不可欠になるのです。例えば、オランダの国防省のシミュレーションセンターでは、SenseGloveが開発したハプティクスグローブのNovaを使って衛星通信用の受信機を設置する手順をバーチャル環境の中で実際と同じ触覚を使いながらトレーニングしています。これによってこれまでのバーチャルトレーニングでは不可能であった筋肉の記憶が鍛えられ、必要な機材や部品の重さや形状を身体で感じながら実際と同じような経験値が得られるのです。 https://www.forbes.com/sites/jenniferhicks/2021/01/11/at-ces-2021-these-haptic-gloves-could-change-virtual-reality-training-forever/?sh=549d297d7d4c
「匠の技」とよく言われますが、それは伝統工芸の職人さんが手の触覚を使って長年に渡って身体で覚えた技量であり、他の人が簡単に真似ができないから素晴らしく、また高い価値があると言えますが、その一方で伝統的な文化の伝承という点においては、その技術の伝承と後継者問題が常に話題になります。もしバーチャルゲームの感覚でこのような匠の技がある程度でも体得できるようになると、日本の伝統工芸を引き継ごうを思う若者が増えるかもしれません。
Webrainではこのようなプロフェショナルな修練について、ニューヨーカー誌の専属ライターでジャーナリストでもあるマルコム・グラッドウェル氏の「1万時間の法則」に何度か触れ、大きな成功は1万時間にも及ぶ絶え間ない努力の賜物であることを紹介してきました。 https://studyhacker.net/ten-thousand-rule
今後触覚のデジタル化が普及し、デジタル環境でマッスルメモリーを鍛えることができたら少なくとも1万時間もの厳しい練習は必要なくなるかもしれません。このように考えると、触覚のデジタル化が可能にする世界が我々人類の将来にも大きな影響を与えることを感じてもらえるかと思います。
<触覚のデジタル化を支援するプレーヤー>
SenseGloveでは、繊細な力感や仮想物体の大きさや密度を再現できるグローブを開発している。ハプティック技術は、リアルなシミュレーションにおいて非常に重要な要素であり、同社の製品は既にフォルクスワーゲン、P&G、エアバスなど100社以上で採用されており、様々な製造環境にカスタマイズすることで、生産性の向上や実践的なトレーニングが可能になる。
HaptXは、HaptX Gloveという製品を開発している。同製品には130カ所の触感フィードバックポイントが埋め込まれており、これらのポイントを膨らませたり萎ませることで繊細な触感を再現している。日産は同社の触覚グローブを用いたVRシミュレーションを開発・導入しており、車両のデザイナーが製造工程を経ることなく車両の乗り心地などを検証することを可能にしている。
Comments